危 な い 橋
作者 麻衣
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高校生活もちょうど半ばの2年生2学期、夏の暑さもやっと和らいで、とても過ごしやすい日々が続くようになってきた。
私の名前は、岡崎亜耶。スポーツをしたり見たりするのが好きで、中学の時には野球部のマネージャーをしていた。高校に入ってからは、大親友の西内里美と一緒にサッカー部のマネージャーをしていた。
でも、2年生になって間もないころに、ちょっと訳有りで辞めてしまった。
私は、同じサッカー部に入ってきた瀬戸君という同級生の人と付き合っていた。
付き合っていたというか、瀬戸君はけっこう強引なタイプの人で、彼からの交際の申込みをOKしてからは、ほとんど毎日、一方的に電話がかかってきてデートに誘われて、帰宅途中や休みの日にあち
こちと振り回されていたような、そんな感じで付き合うという毎日が続いた。
初体験は、彼の誕生日の日。この日はちょうど日曜日で、朝からデートをすることになった。私は、かなり以前から、彼に何をプレゼントしようかなぁと考えていて、結局、誕生日の一週間くらい前に彼本人に欲しいものを聞いてみることにした。
「ねえ、瀬戸君の誕生日に何かプレゼントしたいんだけど、何か欲しい物ある?」
「うーん......、欲しい“物”は特にないけど、こういうのはどうかな?」
「えっ、なに?」
「俺の誕生日の日は、一日中俺の言いなりになるってのはどう?」
「えーっ、何それー。」
私は笑いながら言った。
「いや、べ、別に、奴隷になれって言ってる訳じゃなくて、その、なんて言うか、俺のやりたいことを、じゃなくて、・・・・・・。」
急にしどろもどろになる彼を見て、何だかおかしくて笑いが止まらなくなった。
そして、ついに誕生日当日が来た。私は多分、彼がキスをしてくるんだろうなぁって思い、ワクワクしながらいつもより入念に歯を磨いて、新調したお気に入りの可愛いスカートをはいてデートに臨んだ。
午前中に映画を観たあと、彼は、自分の家に来るように誘ってきた。やっぱりキスされるんだ、と思いながらも、平静を装って言われるままに彼の後をついて行った。
彼の家に着くと、彼の両親や兄弟は外出しているらしくて、中には誰もいなかった。それから彼の部屋に案内されて、最初のうちはいろいろとおしゃべりをして、そのあとベッドに並んで座ってテレビを見ていた。
そうしてしばらくしたら、彼の腕が私の肩に回ってきて、何も言わずに私の唇に彼の唇を重ねてきた。「やったー。」念願の初キスの喜びと恥ずかしさで身体が熱くなってきたその直後、彼がそのまま私をベッドに倒して上に重なり、服のボタンに手をかけてきた。
私は、それ以上の展開を全く想定していなかったので、ビックリして自分の服のボタンを手で押さえた。彼は、「優しくやるから...」って言って、私の手を振り解こうとした。私はかなり躊躇ったけど、彼のことが好きだったから、手をボタンから離し、彼のされるがままになろうと決心した。
彼は私を全裸にしたあと、自分も全裸になり、手や舌を使って私の胸や大切な部分を愛撫してくれた。その時は気持ちが良かったが、彼がゴムを着けて中に入れようとした時、凄い激痛が全身に走った。私が「痛いっ。」って言うと、それを聞いた彼は焦ってしまい、中に入れようとしたがうまく入らなかった。
彼はそれから何回か試みたんだけど、結局最後は、痛がる私に構わず、強引に中に入れてしまった。私はただ凄い激痛に耐えるだけで、快感など全く得られなかった。
その日は結局それで終わってしまい、私は普通に歩くこともできないくらいの痛みと戦いながら、なんとか家路に着いた。
その日以来、私たちは2度ほど身体を重ねた。2回目のときも少し痛くて気持ちが良くなかったが、3回目のときは少し慣れたせいか、心なしか快感を得ることができた。

彼と付き合うのをやめたのは、私たちが2年生になって、後輩の1年生の子2人がマネージャーとして入ってきた頃。そのうちのけっこう可愛い子と瀬戸君がある日、何とふたりで街を一緒に歩いているところを私が偶然目撃してしまったのだった。
「きっと、彼が誘ったにちがいない......。」
私は、直観でそう思った。
その日を境にした頃から、彼からの電話の数が次第に少なくなってきた。私も彼のことが段々信じられなくなってきて、たまに来る電話の誘いにも断るようになった。それから数日後、彼の方から本当の事を打ち明けられた。
「実は、他に好きな人ができちゃって...、ごめん......。」
まさに一方的な別れの告白だった。私は、確かにショックは受けたけど、心のどこかでは、これでもう彼のことで悩まなくて済むんだなぁっていう安堵感のようなものもあった。
瀬戸君は、噂では、やっぱりその1年生のマネージャーの子とこっそり交際が続いているみたい。
私と瀬戸君が付き合っていたことは、サッカー部では知らない人はいないくらい有名になっていた。でも、瀬戸君と別れてからは、私は当然のごとくサッカー部に居づらくなってきた。そんな私を察してか、他の部員の人たちが私にすごく気を使ってくれているのが分かった。
「私がここに居てもみんなに迷惑をかけるだけだし、何よりも自分自身が瀬戸君の顔を見るのが辛いし、増してや瀬戸君の相手が同じマネージャーの子となれば......。」
私がマネージャーを辞める決断を下すのに、そんなに多くの時間は要らなかった。
それには、辞めることを勧めてくれた、大親友里美の存在も大きかった。
「私もマネージャー辞めるから、一緒に辞めようよ。後輩のマネージャーが居るんだから、私達が辞めても問題ないよ。」
そう里美が私に言ってくれた。私は里美のそんな優しさに、心の底から感謝した。

里美は、私に何かあるとすぐに的確なアドバイスをしてくれる、私にとってホントに頼もしい女の子だ。
私は、自分では良く分からないんだけど、よくクラスの男子から電話や友達を通して告白されたり、女の子からも「可愛い」と言われたりする。聞けば、色白ぽっちゃり系で、普段はおとなし目で控えめな性格が可愛いのだそうだ。
里美は、週に1回は必ず私に同じことを言う。
「亜耶は可愛いんだから、気をつけなきゃ駄目だよ。」
とか、
「亜耶はモテるんだから、もっと男を見る眼を養わなきゃ。」
とか。
私にあまり自覚がないもんだから、繰り返し忠告しないと駄目なんだと言う。私としては、そんなしっかり者の里美に益々頼ってしまうばかりで、自分で考えるよりもすぐに里美に相談してしまう。ホントに悪いクセだ。
例えば、私がクラスの男子から告白されると、すぐに里美に相談に行く。すると里美は、
「ああ、あの人は遊び人だから断りなさい。」
とか、
「あの人は大人しくて根暗だから、亜耶には合わないよ。」
とか、ズバズバと言ってしまう。しかも、それがホントに当たっているようで、凄い。
里美は、私と反対で、どちらかというと色黒で活発に見えるタイプ。私よりも目がパッチリしていて、とってもキュートで可愛い子。里美もよく、男子から告白されたりしていたので、その辺の扱いに関しては慣れている。私と違って、要領良く付き合える子だから、男性経験はこの歳にしてけっこう豊富な方じゃないかな。だから、里美には男を見る目があって、即差に相手の性格分析が出来てしまうらしい。私は、そんな里美が本当に羨ましい。
ちなみに、私が瀬戸君に初めて告白された時、里美は瀬戸君のことについてこう言っていた。
「あの人は、見た目は今風でカッコイイけど、かなり自己中が入ってる感じがするから、付き合ったら苦労すると思うよ。」

何でも話せる里美にも、やっぱり言えない事はある。誰にも言えない秘密は幾つかあるけど、その中でも絶対に言えないのが、性の悩み。
実は、私は昔から、いわゆるレイプ願望みたいのがあって、テレビのドラマとかで女の人が襲われるシーンなんかを見ると、すごくドキドキして変な気持ちになってしまう。
こんな願望を持つようになったのは、多分、あの出来事があってからではないかと思っている。
あの出来事とは、私が小学校2年生の時。
ある日の放課後、クラスメイトの男子5人と私1人で教室の掃除を終えて帰ろうとしていたとき、私は、その中のちょっと意地悪そうな三木くんという男の子が、自分の小さい頃の写真を床に落としたのを見て、その写真をこっそり拾い上げて見て見ると、その写真があまりにも今とかけ離れた可愛い顔で写っていたので、これはスクープ写真になるぞって思い、その写真を胸の内ポケットにしまってから、
「三木くんの可愛い写真、明日みんなに見せちゃおーっと。」
って言ったら、三木くんは、自分のポケットの中を捜しながら、
「あっ、おれの写真がない......。おい岡崎、おまえおれの写真拾っただろ、返せよ。」
と言って慌てだした。私は面白くなり、「持ってないよー」って言って、その場を立ち去ろうとしたら、三木くんが私の腕をつかんできて、
「よーし、じゃあ、この場で調べてやる。」
と言って、私の身体を乱暴に触って調べ始めた。私が激しく抵抗すると、
「おい、みんなも手伝ってくれ。」
と叫んで、他の4人の男の子を呼んだ。男の子たちはすぐに私に近づいて来て、それで6人でもみくちゃになっていたら、私はバランスを失って床の上に倒れてしまった。
「よし、みんなで押さえつけろ。」
三木くんがそう言うと、みんなが私の手足を1本づつ掴んで床に押さえつけた。私は、床の上に大の字の形で仰向けに固定されてしまい、身動きが全く取れなくなってしまった。
「ねえ、やめてよ、離してよ......。」
私が叫んでも、みんなは手足を離そうとしなかった。その時、三木くんが私の上にまたがって乗っかってきて、服の中に手を入れて探し始めた。写真はすぐに見つかってしまった。
「ほら、あるじゃねえか、岡崎、おまえウソついたな。よーしおまえ、ウソをついたバツとして、おまえを“くすぐりの刑”にかけてやる。」
三木くんはそう言うと、馬乗りになりながら、私の服のうえから両手で胸や脇を激しくくすぐり始めた。
「きゃー、やめてーーー。」
物凄い刺激にもがき苦しんでいる私を見て面白くなったのか、手足を押さえている他の男の子たちもニヤニヤしながら私の身体をくすぐってきた。
「キャハハハハハ、イヤー。」
私は、10本の手によってくすぐられて、その凄い刺激に我慢できなくなって絶叫した。みんなは一端手を離し、私が息をハアハアさせながらぐったりすると、再び三木くんがくすぐり始めた。私はまた悶絶して、キャーキャーと叫び声をあげた。三木くんは面白がって、それを2回くらい繰り返しているうち、私は、何かいじめられているような気持ちになったのか、無意識のうちに涙が流れてきた。三木くんたちはそれに気付いて、
「おい、泣いちゃったぞ。」
「やべぇ。」
と言って、私から離れると、みんなは逃げるようにその場を立ち去って行った。

この出来事が原因なのだろうか。私は、自分で性欲を処理するときには、決まっていつも自分が被害者の状況に置かれているシーンを想像してしまう。例えば、暗がりで知らない人にレイプされたり、クラスの大勢の男子の前で裸にさせられたり、5、6人の大の大人に捕まって輪姦されたり...、といった具合に。
こんな自分が異常な人間じゃないのかって思うことがあるけど、そんな過激なシーンになればなるほど、興奮して気持ちが良くなってくる。これは、誰が何と言おうと否定できない事実...。
そのうえ、私はたまに、空想の世界だけに留まらず、本当に実際に襲われてみたいという欲求が込み上げてくることがある。実際にレイプされるのって、どんな感じなのかな、小学2年の時に受けたように、また男子とかにいたずらされる機会がないかなぁ、なんていう衝動に駆られることがよくある。
でも、実際に、例えば全く知らない人に襲われるなんて、恐ろしくて絶対にできない。何をされるか分からないし、命だって危ない。仮に命が助かっても、致命的な傷を負ってしまったら......。
だからと言って、顔見知りの人に襲われたとしたら、そのあとの関係がおしまいになってしまうし......。
あるいは、写真やビデオに撮られて脅されたり、妊娠の危険性だって......。
私の中では、そうした現実的で常識的な自分と、襲われてみたいという非現実的で非常識な自分という2人の自分が常にいて、特にエッチな気分になったときはよく、この2人の自分が同時に出てきては対立を始めてしまう。
そんな心の葛藤に、私はずっと悩まされている。
しかも、こんな恥ずかしい悩み事は、身内や友達なんかには到底相談できる訳がなく、かといって自分自身で解決することもできずに、悶々となりながらただ時だけが経過して...、といった感じになっている。
そんな葛藤を心の中にしまい込んだまま、私がまだサッカー部のマネージャーをしていた高校1年の2月に、ある出来事があった。
サッカー部の練習中に、たまに部のOBがグラウンドに遊びに来る。その日は、昨年卒業したばかり、つまり、私と入れ替わりで高校を卒業した3つ年上のOB4人が練習を見に来ていた。
私は、そのOBの先輩たちのことはよく知らないが、以前に何回かここに顔を出して、その時に一言二言会話をしたことがあった。その4人は、今は同じ某大学に通っているらしく、みんな茶髪で日焼けしていて、見た目はちょっと怖そうな遊び人って感じの人たちだけど、話すとけっこう気さくで親しみやすいという印象を持っていた。
その日の練習が終わって、私が1人部室に入り、洗濯し終わったみんなのユニフォームをたたんでいるとき、廊下の方からそのOBたちの話し声が聞こえてきた。
「もう1人の色白の子は、名前何ていったっけ?」
「えっと、岡崎さんです。」
「下の名前は?」
「えっと......、亜耶さんです。」
OBが私のことを話している。それから、受け答えをしているのは、2年生の石黒先輩だ。私は耳を傾けて、OBたちの話しを聞いてみることにした。
「里美ちゃんも亜耶ちゃんも可愛いよな。おまえはどっちの子がタイプだ?」
「俺は亜耶ちゃん派だな、里美ちゃんもいいけどな。」
「俺もどちらかと言うと亜耶ちゃんの方かな。」
「おっ、気が合うなぁ。」
その会話を聞いていて、ちょっぴり嬉しくなった。でも、聞いていくうちに、OBの会話が段々エスカレートしてきた。
「亜耶ちゃんって、可愛い顔してるし、スタイルもけっこういいし、足がすらっとして綺麗じゃん。」
「ホント、いい足してるよな。」
「ウエストがくびれてて、お尻がぷりんとしてて、後ろから見たラインなんかホント、ムラムラしてくるぜ。」
「胸だって、けっこうイイ胸してそうじゃん。」
「もう、たまんねぇって感じ、ははは。」
ここまでの会話なら、私も何とか許せるかな、って思った。しかし、次の瞬間、私は自分の耳を疑いたくなるような、信じられない会話を聞いてしまった。
「亜耶ちゃんと1回ヤレたら最高だろうな。」
「ダメだって、俺が先に亜耶ちゃんに目をつけたんだぜ。」
「おっ、おまえ1人で独占する気か?」
「何だよ、じゃあ、一緒にやりてえって事か?」
「おまえと3Pしてどうすんだよ。」
「じゃあ、2人で亜耶ちゃんをマワそうか?」
「マワすって?それも面白いな。」
「俺も参加してえな。」
「それなら、俺も犯るぜ。」
私は怖くなって、部室の奥に身をひそめた。
「おい、タケシ、おまえももし亜耶ちゃんか里美ちゃんとやれるとしたら、どっちとやりてえんだ?」
「えっ、そんな...、......しいて言えば......、岡崎さんですかねぇ...。」
タケシとは、石黒先輩のことだ。石黒先輩までそんなことを言っている...。
「おまえももし亜耶ちゃんとやれるとしたら、絶対手ぇ出すよな?」
「えっ...、はあ、そりゃまあ......どうでしょう。」
私は、先輩たちが部室に入って来ないことを必死で祈った。
心臓がばくばくする音がはっきりと分かった。
幸い、先輩たちは部室を通り過ぎて、そのまま外に行ってしまった。
あの日以来、私は石黒先輩に近づきにくくなり、このまま何もなく時が過ぎてくれれば、と思っていた。元々石黒先輩は大人し目で、よっぽど何か用がなければ私に話しかけないような人だったから、結局私がマネージャーを辞めるまで、特に誘ってくるようなことはなかった。

夜。
私って本当に異常な女の子だ、って思う瞬間がまたやって来た。
あのOBたちが卑劣な会話をしていた時には、あれだけ拒否反応を示したのに、月日が経った今、エッチな気分になると、自分があのOBたちに襲われているシーンをつい想像してしまい、しかも興奮してしまっている。
最近は特に、OBたちが頭の中に登場してきて、いけないことと思いつつも、つい右手が大切な部分に伸びてしまう。こうやって自分が襲われているシーンを想像しているときは、すごく興奮してとっても濡れてくる。でも、欲求を処理し終わると、何だかとっても自分が悲しくなってくる。こんなことをして慰めている自分に、腹立たしささえ覚えるようになってきた。

サッカー部のマネージャーを辞めてから、もう3ヶ月が経っていた。
私も里美も、大学の受験に向けて、そろそろ本腰を入れて勉強しようとしている。
私は、今は彼氏と呼べる存在もなく、特別に好きと言えるような男性もいない。だから、勉強に集中するにはいい状況だ。里美はというと、相変わらずの要領の良さで、2ヶ月前から付き合い始めているバイト先の人とけっこうラブラブの日々を送っている。
私が里美に、
「これからも、勉強と彼氏を両立していくわけ?」
って聞くと、
「もちろんじゃん、彼氏のことを考えるとファイトが沸いてきて、よーし、勉強もがんばるぞー、って気になるんだよねー。」
里美はそう力説してくれた。
そんな毎日を送っていたある木曜日の夜のこと、私に1本の電話がかかってきた。
「もしもし、岡崎さんでしょうか?」
「はい、そうですけど。」
「あの、僕、サッカー部の副キャプテンの石黒ですけど。」
「あっ、どーも、ご無沙汰してます......。」
3年生になって副キャプテンになった石黒先輩だ。石黒先輩から電話がかかってきたのは初めてだ。ちょっとびっくりしたが、どんな用件なのか聞いてみた。
「実は、あさっての土曜日に、先生抜きで、サッカー部の祝勝パーティーをやろうということになって、それで、岡崎さんと西内さんにも是非きて欲しいと思って電話したんだけど、都合はどうかな?」
サッカー部は、先週の県大会でベスト4まで勝ち進んだのだった。準決勝では惜しくも破れたが、それでもベスト4まで進んだのは、開校以来初の快挙だった。
「えっ...、でもいいんですか?だって、私はもうサッカー部辞めちゃっているし...。」
「岡崎さんは1年間よく頑張ってくれたし、来てくれたらみんなも必ず喜んでくれるよ。だからお願い、どうしても来て欲しいんだ。」
正直言うと、私はもうサッカー部には関わらないでいようと思っていただけに、石黒先輩の誘いにかなり戸惑った。それにしても、なぜ石黒先輩から私に電話をくれたのか、ちょっと不思議だなとは思ったけど、とりあえず、今すぐには返事を言わないで、里美と相談してから決めますと言って電話を切った。石黒先輩は、明日また電話をくれるというので、そのときに返事をすることにした。
電話を切るや否や、早速里美に電話をしてそのことを話した。里美は土曜日は何か用事が入っていたみたいだったが、せっかくの誘いだからと言って、祝勝パーティーに参加させてもらうことに決めた。
次の日の夜、約束通り石黒先輩から電話が入った。私は、「里美と一緒に行きます。」と言ったら、すごくホッとした声で「ありがとう。」と言った。
私は、電話を切ってからも、しばらく考え続けていた。正直言って、あまり気が乗らなかったので、やっぱり行くのをやめようかどうしようか、最後の最後まで迷っていた。里美に電話して相談しようかと思ったが、結局先輩たちの好意に素直に甘えようと決心した。
明日は楽しい一日になればいいなって、段々そう思えるようになってきた。

私の住んでいる街の中心には、「阿津内川(あづないがわ)」という小さな川が流れていて、その川の東側には、私たちの通っている学校をはじめ、スーパーやマンション、オフィスビルなどが立ち並んでいる。反対の西側には、大人の人たちが行くような飲み屋やテレクラ、何とかヘルスといった店がずらっと建ち並んでいる、いわゆる風俗街になっていて、私たちのような普通の学生や女の子なんかには縁がない所である。阿津内川には「あづないばし」という橋が架かっていて、私たちの間ではその橋のことを「あづないばし」とは呼ばずに「危ないばし」と呼んでいた。
祝勝パーティーの場所は、この「危ないばし」のちょうど東側の麓にある居酒屋で行われることになっている。

パーティーが行われる土曜日の当日、私は授業が終わるとすぐに里美と学校を飛び出し、今夜のパーティーに着ていく服を買いに街のカジュアルショップに行った。
私は、可愛い服が買いたかったが、里美がちょっと大人っぽい黒のキャミソールを買ったので、仕方なく私もそれに合わせるために、ちょっと露出度の高い白のノースリーブを買った。
時計を見てびっくり、服を買い終わった時はもうすでに4時、私たちは選ぶのに時間をかけ過ぎた。パーティーは6時からだから、一端家に帰ってまた街に出るとけっこうぎりぎりの時間になるため、スカートを買う予定を取りやめて家に帰ることにした。結局、下は穿き慣れたジーンズを穿いて行くことにした。
午後6時の10分前、私と里美は居酒屋に着いた。中に入ると、カウンターや座席の奥に20畳くらいの広間があり、そこにサッカー部の予約席があった。部員たちはもうすでに7割くらい来ていて、私たちの顔を見て笑顔で歓迎してくれた。
瀬戸君も来ていて、マネージャーの彼女と向かい合わせでテーブルの端の方に座っていた。私たちは、瀬戸君たちの居る方とは全く反対の方に座った。
6時ぎりぎりになったとき、みんなの姿勢がちょっと正しくなったかと思うと、あの大学生のOBたち4人が入ってきた。そして、広間をきょろきょろ見回したかと思うと、何と私と里美のいる向かいにいた部員たちを避けさせて自分たちがそこに座ってしまった。
私は一瞬、胸が締め付けられる思いがした。以前、私のことで卑劣な話をしていたのを思い出したのだ。勿論、あのことは里美には言っていないけど...。
「えー、それでは、時間となりましたので、これからサッカー部の祝勝会を始めたいと思います。今日は先生がいないので、思いっきり騒いで盛り上がりましょう。それでは、かんぱーい。」
「かんぱーい。」
キャプテンの挨拶でパーティーが始まった。部員のうちの何人かは、先生がいないのをいいことに、チューハイやビールなどを頼んで飲んでいる。OBたちはビールを頼んだが、飲む前から何故だかすごくハイテンションになっていた。私たちはあっけに取られて、最初はOBたちの乗りについて行けなかった。しかし、誰とでも屈託なく話せてしまう里美が、そのうちにOBたちと楽しく話し出した。
「里美ちゃんは、マネージャー辞めて、今何やってるの?」
「ファーストフードでバイトしてるんです。」
「えっ、それ、どこのファーストフード?今度俺そこに行くよ。」
「おまえ、そこ行ってどうすんだよ?」
「里美ちゃーん、ハンバーガーと里美スマイル下さーい、って言うんだ。」
「ばっかじゃねーの、ハハハハハ。」
私もそのうち、みんなの乗りに少しづつついて行けるようになってきた。
「ねえ、里美ちゃんって、彼氏いるのー?」
「えっ...、あっ、はい、一応。」
「えっ、そうなの?なぁーんだ、それは残念だなぁ。」
里美は正直に答えた。先輩たちは、みんな同じリアクションをしてがっかりした。
「じゃあ、亜耶ちゃんは?」
「......今は、いない、ですけど...。」
「やったー、いないってよ。ラッキー。」
私も正直に答えてしまった。先輩たちは無邪気になって喜んでいる。それからは、里美よりも私に対して質問が多くなった。
「亜耶ちゃんは、どんな男がタイプなの?」
「亜耶ちゃんは、俺みたいな男、どう思う?」
「俺、つい最近クルマ買ったんだけど、ドライブって好きくない?」
なんだか急に質問攻めに遭って困惑した。でも、子どものようにはしゃいだり、ニコニコ笑っている先輩たちを見ているうちに、自分の中で、彼らに対する嫌悪感みたいなものがどこかに消えかかっていくのを感じた。
いろいろと話をして盛り上がった後、OBの4人は、他の部員たちと少し話しをして、それから石黒先輩に何やらひそひそと耳打ちしたかと思うと、みんなに別れを告げて先に居酒屋を出て行ってしまった。
パーティーが終わるまで、私たちの周りに他の多くの部員の人たちが来てくれて、おかげでとっても楽しい時間を過ごすことができた。そして、間もなく終わるころになって、隣に石黒先輩が座ってきた。先輩は相談を打ち明けるような感じで私に話しかけた。
「岡崎さんにお願いがあるんだ。」
「えっ、なんですか。」
「実は、さっきのOBが今、俺ん家にいて2次会をやろうとしてるんだ。それで、OBが岡崎さんと西内さんにも是非来て欲しいから、俺に呼んで来るように言って出て行ったんだ。俺も2人に来てもらったらすごく嬉しいし、だからお願い、俺の家に来てくれないかな。」
「先輩の家って、どこにあるんですか?」
「うん、あの川を渡って、歩いて5分くらいのところにあるんだ。近いでしょ。」
「はい...。でも、もう8時だし......。」
「お願い。30分くらいでもいいんだ。ちょっと顔出す程度でいいから。...もし来てくれなかったら、俺、OBに何されるか分からない...。」
「えっ?」
石黒先輩は、何だかOBの人たちに命令されているようで、半ば必死の形相で頼み込んでいるといった感じだ。私は、どうしてそんなにOBの言いなりになっているのかが理解できなかった。それにしても、メンバーが石黒先輩とOBだけ......。私は、ふっと2月のあの卑劣な会話を思い出した。「行ったらやばい。」咄嗟にそう思って、石黒先輩にどう言おうか言葉に詰まった。里美は隣にいるが、他の部員と楽しくしゃべっていて、石黒先輩の話しは全く聞いていない。
「...とりあえず、里美と相談して決めます。」
「そう。...絶対来てね、お願いだから。俺、ここを出たら、そこの橋のところで待ってるから。じゃあ、頼んだよ。」
先輩はそういうと、私から離れて行った。
最後の乾杯が終わり、みんなが居酒屋を出ようとしている間、私は、石黒先輩の家に行こうかどうしようかずっと迷っていた。今日のOBたちはとても優しそうだったとはいえ、もし行けば、危ない目に遭うかもしれないというのは容易に想像できている。なのに何故迷っているのだろうか。はっきり言って、OBに命令されている石黒先輩に同情する気は全くなかった。......問題は、私自身の中にある。今、自分の中に常識的な自分と非現実的な自分が同時に現れていて、私が万一先輩たちに襲われたらどうしようか、そしてその後の状況はどうなるのか、そんなことを頭に思い浮かべながら葛藤し始めていた。相手はサッカー部の関係の人...、もし今日が過ぎれば、多分私はもう2度と一緒にお話しとかする機会はないだろう。生理の日も近いから、妊娠の可能性も低いのではないか......。でも、やっぱり行くのは怖いし......。
しかし、そんなことよりももっと大切なことがあった。里美のことだ。私は自分のことよりも、里美の安全のことを思い始めるようになった。私に万一のことがあっても、里美にだけは絶対に危険な目に遭わせてはいけない......。
そう思っていた時、里美が話しかけてきた。
「亜耶、このあとどうするの?」
私は、一瞬言葉に詰まって、それから話を始めた。
「あっ、実はね、さっき石黒先輩が来て、これから自分の家でさっき出て行ったOBたちと一緒に2次会をやるから、私にも是非来て欲しいって言ってくれたんだ。」
「あ、そうなの?でも、OBとはそんなに親しくないし、まさか亜耶行かないでしょ?」
「うん......。でもね、なんか、OBの人が私に話したいことがあるんで、どうしても来て欲しいって言うから、ちょっとだけ行って来ようかなって思ってるんだ。」
「えっ?亜耶ひとりで行く気?それ、ダメだよ。絶対危ないよ。もし襲われたらどうするの。」
「あははは、大丈夫だって。すぐに帰るから。先輩だって悪い人じゃなかったじゃん。」
「でも駄目だって。もし、どうしても行くんだったら、私も一緒に行くから。」
「ううん、絶対大丈夫。私ひとりの方が、相手の人も話しやすいみたいだし。」
私は、何とかして里美を説得しようとしていた。私たちは居酒屋の出口付近で、しばらく話し合いが続いた。そして、里美はようやく私のわがままを聞いてくれた。
「分かった。じゃあ、私先に帰ってるから、亜耶ひとりで行ってきなよ。いい?もし、先輩に付き合ってくれって言われても、他に好きな人がいるからって言って断るんだよ。」
「ははは、里美に言われなくても分かってるって。」
そう言って、私は里美と手を振って別れた。そして、石黒先輩のいるもとへ歩いて行った。
「先輩、遅くなってすみません。」
石黒先輩は、橋の前で、ずっとひとりで待ってくれていた。
「あれっ、西内さんは?」
「里美は...、用事があるからって言って先に帰りました。」
「あっ、そうなんだ。......でも、岡崎さんに来てもらえるだけでもすごく嬉しいよ。本当にどうもありがとう。」
先輩は、ホッと息をついてそう言った。
私は先輩と2人で「危ない橋」を渡り、先輩の家があるという場所へと向かった。私自身、この橋を渡って西側の風俗街に行くのは、実はこれが初めてだった。
家に着くまでの間、先輩は自分とOBの人たちとの関係について話しを始めた。
「俺、あのOBたちには頭が上がらないんだ。実は、俺が1年生でOBが3年生の時、サッカーの試合で後半の30分までうちの高校が勝っていたんだ。俺はベンチで控えていたんだけど、先輩の1人が足を痛めてしまって、替わりに俺が出ることになったんだ。そしたら、俺は緊張しちゃってボールをクリアミスしてオウンゴール、結局それが原因で逆転負けになってしまった。他の先輩たちは俺のことを許してくれたんだけど、あの先輩たちだけは、いまだに根に持っているみたいで、今でもたまに練習を見に来てはいろいろと命令しているんだ。」
石黒先輩は、肩を落としながら話してくれた。今まで先輩がぺこぺこしていた理由が、これでやっと分かった。
でも、私はその話を聞いて、ちょっとガッカリした。いくらそんなことがあったとはいえ、石黒先輩にはもっと男らしく気丈でいて欲しかったし、同時に、OBの人たちへの嫌悪感も抱き始めた。そう思うと、何だか急に行くのが嫌になってきた。やっぱり帰ろうかな、今ならまだ間に合うかな、どうしよう...。
「着いたよ、ここが俺の住んでいるマンションなんだ。」
そう思い始めたのもつかの間、私たちは石黒先輩の家の前に着いてしまった。家といっても、大きなマンションだった。私は、帰るタイミングを逸してしまった。
先輩の言われるままにマンションに入り、中のエレベーターに乗った。そして、10階建てのマンションの最上階でエレベーターを降り、石黒と書いた表札のドアを開けて中に入れられた。どうやら、先輩の家族の人はみんな外出していて、中にはOBの人しかいないらしい。私は、自分の心臓のドキドキしている音が、身体の外からでも聞こえてくるような、そんな緊張感に見舞われてきた。
「よう、遅かったな、タケシ。」
先輩が先に中に入ったと同時に、中からOBたちの声が聞こえてきた。私は、靴を脱いで恐る恐る玄関を上がり、そしてゆっくりと部屋の中に入った。
「おー、亜耶ちゃんだ。待ってたぜ。」
「やったー、タケシ、でかしたぞ。」
一斉に拍手と歓声が湧き上がった。私はその場で立ちすくんだまま苦笑いした。
「あれっ、亜耶ちゃん1人かい?」
「里美ちゃんは来てないの?」
先輩たちは、里美が来なかったことに、すぐに疑問を抱いた。
「里美はちょっと用事があるからって言って、先に帰りました。」
「あっ、そうなの?それは残念だなぁ...。あっそうか、里美ちゃんは彼氏がいるから、これから彼氏とふたりで過ごすんだよな。ま、でも、亜耶ちゃんが来てくれたから、俺はそれで満足だけどな。」
「俺たち、みんな亜耶ちゃんのファンなんだぜ。これから一緒にパアーッと盛り上がろうぜ。」
部屋には缶ビールが何本も空けられて床に転がっていた。OBの人たちはみんな、既にかなりビールを飲んで酔っ払っていた。
最初のうちは、かなり酔っ払っているOBたちが怖くて近寄りがたかった。でも、みんなはそんなに特別私を意識する感じもなく、ハイテンションで笑い話に花が咲いていた。別にエッチな話や下ネタもなく、高校時代の思い出話で盛り上がっていた。私は、みんなの話を聞いて少しずつ楽しくなり、そのうち自然と一緒になって笑ったりして、自分からも会話に溶け込んでいくことができるようになった。
石黒先輩の部屋での2次会は、思いのほか楽しかった。時間が経つのを忘れて、私はおなかが痛くなるくらい笑い続けていた。そんな先輩たちを見て、私の中にあった嫌悪感みたいなものが完全に消えかかっていた。「そうだよな、口では冗談半分にでも卑劣なことは言えるけど、実際にそんなことする訳がないよな。私の方がちょっと過敏に反応しすぎていたかな...。」と、そんな風に思えてきた。
高校時代の話もある程度ネタが尽きてきたとき、先輩の1人がおもむろに私に質問をしてきた。
「ところでさぁ、そろそろ本題に入るんだけど、亜耶ちゃんはさっきの1次会で彼氏いないって言ってたよね。実はさぁ、俺たちみんな亜耶ちゃんのことが気に入っちゃってさー、もし、俺たちの中で付き合ってもいいなって思う奴がいたら、そいつの彼女になって欲しいと思うんだけど、どうかなー?」
いきなりの告白だった。しかも、4人同時に告白されたのは勿論初めてのことだったので、すごくビックリしてしまった。私は一瞬頭の中が真っ白になったが、すぐに自分を落ち着かせて冷静になった。
みんなは一見遊び人風でちょっと不良っぽいけど、性格は確かにいい人だと思う。もし付き合ったら、それなりにいいことがあると思う。自分にとっても相手にとっても、お互いプラスになるいいお付き合いができるかもしれない。でも、今は里美と一緒にいる方が楽しいし、受験勉強もそろそろ始めようと思っているところだから......。少し“もったいない”気がするけど、先輩たちには傷付けないように丁重にお断りしよう。
「あの......、お気持ちはとっても嬉しいんですけど、実は、いま、他に好きな人がいて、それで......、本当にごめんなさい。」
一瞬、部屋中に沈黙が流れた。みんなの表情がピタッと止まってしまった。
「どうしても、だめかな?俺たち、彼女になってもらったら絶対大切にするからさ。」
「......ごめんなさい。」
私は、終始下を向いて、申し訳なさそうに言った。
「そ、そうか...、それじゃ仕方がないよな。」
少しの沈黙のあと、1人がぽつりとそう口にした。
「それなら仕方ないよな。...それじゃぁ予定を変更するか。」
そう言った瞬間、みんなの態度が急変した。私はその時、部屋中に異様な空気が流れてきたのを感じ取った。何か気まずい雰囲気になって、不意に時計を眺めた。時計は既に9時を回っていた。ここに来てから裕に30分以上経っていた。私は、遅くても9時には帰ろうと思っていたので、みんなに断って先に帰らせてもらおうと思った。
「あのぅ、もう最終のバスが来るので、すみませんけど、これで失礼させて下さい。」
そう言って立ち上がろうとした時、隣に座っていた先輩が私の足を抑えた。
「だめだよ。バスに乗らなくたって、俺たちがタクシー代出してやるから、もう少し居ようよ。」
「でも、私、門限があるんで...。」
「いいじゃん、明日は日曜日なんだしさ、1回ぐらい夜更かししたっていいじゃんよ。」
その時、足を抑えていた人が私の背後に回り、後ろから抱きついてきた。私は驚いて、身体を硬直させた。
「亜耶ちゃん、俺たちと一緒にいい思い出作ろうよ。」
抱きつきながら、耳元でそう囁いた。
「亜耶ちゃん、せっかく今日こうして一緒に楽しんだんだから、これからもっと気持ちいいことして遊ぼうよ。」
そう言うと、他の3人が私の前に近づいてきた。「ヤバい。」私は身の危険を感じて、反射的に膝を立て、上半身を前にかがめた。すると、後ろで抱きついている人に上体を起され、そして両手をがっしりと掴まれた。私の前が無防備の状態にさせられてしまった。
「俺たちと気持ちいいことして遊ぼうぜ。な、亜耶ちゃんよ。」
そう言って、1人が私の服の下に手をかけた。
「...冗談でしょ?...嘘ですよね?」
私のささやかな言葉の抵抗も虚しく、服を一気にたくし上げられ、そしてブラもまくり上げられた。
「キャー、いやっ。」
私は恥ずかしさのあまり、顔を横にそむけた。
「うおーっ、いい乳してるじゃんよー。」
「すっげえ、美乳じゃん。」
一斉に歓声が上がり、その直後、1人の両手が2つの胸に触れてきた。
「おっ、すっげー柔らけぇ。」
胸にある手が動き出し、荒々しく揉み始めた。
「どれ、俺にも触らしてくれよ。」
「俺も触りてぇー。」
他の2人の手も伸びてきた。私は6本の手で、胸を揉みくちゃにされた。
「いやっ、やめて、離してったら。」
「よーし、この子をベッドに運ぶぞ。」
「いやーっ。...冗談でしょ?」
私は必死で抵抗しようとした。その時、部屋の奥で呆然としている石黒先輩と目が合った。
「石黒先輩、助けて。」
私は必死で叫んだが、先輩は呆然としたまま動こうとしなかった。私は、最後の望みが失われてしまった。
「きゃあ、いやっ、離して。」
「うるせえな、おい、口をふさげ。」
誰かの手が私の口を覆うようにして押さえつけた。私は物凄く息苦しくなり、命の危険すら感じて、頭の中が恐怖感でいっぱいになった。私の身体はみんなに持ち上げられて、そのままベッドに運ばれた。そして、私が仰向けに寝かされると、後ろで抱きついていた人に両手を頭の横でがっしりと押さえつけられ、他の3人に服を一斉に脱がされ始めた。
「う...、うぐぐ...、うぐぐ...。」
声をあげようとしたが、口を押さえられていて声に出来なかった。私は、3人の手によって、あっという間に服を全部剥ぎ取られてしまった。あまりの恥ずかしさと恐怖とが入り混じって、頭の中が完全にパニックに陥ってしまった。自分が今、先輩たちに何をされているのかが理解できなくなっている...。
「うわーっ、すげーいい身体してんじゃん。」
可愛いおっぱいしてるなぁ、たまんねえぜ、まったく。」
「おい、俺にもおっぱい分けてくれよ。」
「しょうがねえな、それじゃお前に右のおっぱいやるよ。」
2人が私の両脇で胸を貪り始めた。もう1人が私の両足をこじ開けようとしている。私は必死で足に力を入れて抵抗しようとしたが、何せ相手は体育系で筋肉質、とにかく力が強く、簡単に足を開かれて、その間に身体を置かれてしまった。そして、私の大切な部分を両手で押し開かれた。
「おい、みんな見ろよ、すげぇ綺麗なお○んこしてるぜーっ。」
「どら...、おーホントだ、ピンク色できれいじゃん。」
「なんか、チ○ポ入れるのもったいないな。」
両脇の人が、胸を揉みながらそんなことを言っている。
「俺、もうチ○ポびんびんになっちまったぜ、お前早く入れちゃえよ。」
「俺だって入れてえんだけどよ、この子まだ全然濡れてねえんだ。」
「そりゃそうだろ、この子すっげぇ怯えてるぜ、だってほら、唇が震えてるだろ、かわいそうに。」
「よし、それじゃ、みんなでこの子を気持ちよくさせてやろうぜ。」
そう言うと、両脇の人が再び胸に吸い付いてきた。その直後、大切な部分にヌメッとした舌の感触が伝わってきた。その人はわざとチューチューといやらしい音を立てて、首を動かしながら激しく吸ったり舐めたりを始めた。
「亜耶ちゃん、今みんなで気持ち良くさせてやるからな、ちょっと待っててな。」
私の頭の上で手を押さえている人が、優しい口調でそう言った。他の3人は、無我夢中といった感じで私の胸と大切な所をずっと貪り続けている。
そのうち、何とも言えない別の感覚を覚えてきた。さっきまでは、とにかく怖くて全く訳が分からない感じだった。でもだんだん、今自分がされている異常な状況を少しずつ把握できるようになってきた。「私は今、4人の男の人に無理矢理おもちゃにされてる......。」そう思うと、刺激を受けている部分から、次第に快感が伝わってきた。
「あっ、あ...ん......。」
私は無意識に小さな声をあげてしまった。
「この子、感じてきたぜ。」
「どうだ?濡れてきたか?」
「ああ、濡れてきてる。」
「よーし、それじゃ、そろそろ挿入といくか。」
私のあそこを舐めていた人が、自分のズボンと下着を脱いで、固くなった大きなモノを私の中にゆっくりと入れてきた。その瞬間、凄く重い衝撃が伝わってきた。少しではあるが、裂けるような痛みを感じた。
「うっ、ちっちぇえ、すげーよく締まるぜ。」
そう叫ぶと、その人は自分の腰を前後に動かし始めた。その瞬間、痛みが更に増してきた。
「い、痛い、痛いよー。」
しかし、彼は私の悲痛な叫びを全く聞き入れずに、段々そのスピードを速めてきた。
「うっ...、すげー気持ちいい...、この子最高だぜ。」
彼は夢中で身体を動かし続けてきた。私は顔をゆがめて、必死で痛みに耐えた。
他の3人は無言になり、じっと私の様子を伺っている感じだ。一瞬静かになった部屋には、腰と腰の当たるパンパンという音だけがいやらしく鳴り響いている。
「うっうっ...、俺もう我慢できねえ、イッちゃうぜ...。」
「おい、中で出すなよ。俺のチ○ポ、お前の精子で汚したくねえからな。」
彼は腰を最高に早めた後、自分のモノを外して私のおなかの上に液体を放出した。
「はぁはぁ...、ふーっ、亜耶ちゃん...、ありがとうよ。最高に気持ち良かったぜ...、はぁ、はぁ......。」
彼はそう言って、おなかの上の液体をティッシュで拭き取ったあと、私の両胸にキスをしてから離れていった。
「よーし、次行け。」
「次、俺にやらせてくれよ。さっきから早くやりたくてたまんなかったんだ。」
右脇の人がそう言って、自分のズボンを降ろし始めた。私は少しの間だけ痛みから開放された。しかし、それもつかの間、2人目の硬くて大きなモノが私の中に突き刺さってきた。そして、彼が絶叫した。
「うーっ、気持ちいいーっ、ホント最高だぜ。」
その人は、私の上に覆い被さり、胸を強く揉みながら腰を深く突いてきた。
私は、何度も何度も突かれているうちに、だんだん痛みが麻痺してきて、それと同時に快感のようなものが伝わってきた。彼は自分のモノをさっきよりも深く入れてきた。すると、身体が揺れるたびに、奥から快感が込み上げてきた。
「あっ...、あん...、あん......。」
私は、つい声を出してしまった。そして、犯されながら感じてしまっている自分に気付くと、益々興奮して感じてきた。
「おい、この子、声出して感じてるぜ。よーし、こうなったら思いっきり犯ってやるぜ。」
周りから、そんな言葉が聞こえてきた。私は、いつまで続くか分からない不安を持ちつつも、もう既に抵抗する気がなくなっていた。
「も、もう駄目だ...、出るぅ...。」
腰を振っていた人が、自分の白い液体を私の胸の所まで撒き散らした。彼が私の身体から離れると、間髪を入れずに3人目の人が入ってきた。
「うぉっ、すげぇ締まるぜ......。」
そう言って、私の中に激しく突いてきた。私は、あまりの快感に、さっきよりも大きな声で悶えてしまっていた。そうしているうちに、何とも言えない波が押し寄せてきた。
「あっ、あーっっっ......。」
「おい、この子イッちゃんたんじゃねえか?」
「すげぇ。犯されてイッちゃうなんて。俺たちもテクニシャンだよな、ははは。」
私がぐったりしているにも関わらず、彼らは腰の動きを止めようとはしなかった。
「ハァハァ、...可愛いぜ、亜耶......、俺の女にしてえぜ...。」
「ううっ、たまんねえ...、亜耶ちゃん、出るぅ、うっ......。」
こうして、私は、4人みんなに1人づつおもちゃにされてしまった。私は身も心もぐったり疲れ果てて、手足を動かすことすらできなかった。でも、これでやっと開放されるんだな、と思った。
「おい、タケシ、お前も見てて犯りたくなっただろ。こっちに来いよ。」
えっ、まさか石黒先輩まで?今の言葉を聞いて、また気が動転してしまった。
「タケシ、犯りてぇのか犯りたくねぇのか、はっきり言えよ。」
石黒先輩は部屋の片隅で、今までの私の哀れな姿を一部始終見ていたらしい。
「どうなんだよ?」
「...あっ、はい...、犯りたいです。」
そう言って、石黒先輩が私のところに歩み寄ってきた。私は、まさか先輩までそんなことをするなんて絶対に思っていなかった。OBの人とはほとんど面識がないが、石黒先輩とは、1年間一緒にサッカー部を過ごしてきて、先輩の一生懸命な姿を見てきて...、そんな思い出がいっぱい残っている。これまでの4人の行為にすごくショックを受けたが、ある意味ではそれ以上のショックを受けた気がした。
「タケシ、あとは頼んだぞ。俺たちはもう帰るから、あとはお前の好きなように犯っちゃってもいいぞ。」
「タケシ、気持ち良くなっても、絶対に中で出すんじゃねえぞ。この子が万一胎んだら、お前のせいだからな。」
「タケシ、終わったあと、ちゃんとフォローして口止めしとけよ、分かったな。」
そう言い残すと、OBの4人は部屋をあとにして出て行った。部屋には、私と石黒先輩の2人だけになった。
もう、こうなったらどうなってもいい。先輩やサッカー部の思い出がかき消されても仕方がない。私は、そんな覚悟を決めた。
「岡崎さん、ゴメン...、許してくれ......。」
先輩はそう言って私の上にまたがり、胸を軽く揉んだあと、手で押さえながら口に含んできた。それから、激しく音を立てて吸った後、自分のズボンと下着を降ろして、硬くなっているモノを私の中に入れて、ゆっくりとピストン運動を始めた。何回も何回も前後に動かしながら、自分の抑えきれない欲求を満たそうとしていた。その動きで、私も気持ちのいい快感が込み上げてきたが、それを先輩に悟られないように必死で声を殺して感じていないふりをした。
「あっ...、気持ちいい、あっ、出るっ...。」
先輩は自分のモノを抜いて、私のおなかの上に精液を出して果てた。そのあと、2人の間にしばらく沈黙が続いた。
5分くらい経っただろうか、石黒先輩がポツリと声を出した。
「ごめんなさい...。全部僕が悪いんです。本当にごめんなさい...。」
そう言うと、先輩は床に手を付いて土下座した。そして、先輩の顔から涙が落ちてきた。
「ごめんなさい...。」
先輩は、その言葉を何度も繰り返した。私は、先輩のその情けない姿を見て、何だかすごく悲しくなって涙が溢れてきた。自分でも何故涙が出てくるのか理解できなかった。ただ、先輩に対する怒りとか、許せないというような気持ちはなかった。怒りがあるのは、むしろ自分に対してだった。「どうして私はここに来てしまったんだろう。私がここに来なければ、こんなことにはならなかったのに...。」私は心の底から自分の取った行動を悔やみ、いつまでも自分自身を責め続けた。
結局、私は最後まで無言のまま、先輩の住むマンションを後にして、走ってきたタクシーを拾って自宅に帰った。家に着いた時には、既に時計の針が12時を回っていた。両親は心配して起きていてくれて、私が何の連絡もないことに説教されたが、最後の元気を振り絞って、
「カラオケに行って盛り上がっちゃって、つい電話するのを忘れてたの。ごめんなさい。」
と謝って許してもらった。

次の日の朝、早速、里美から電話がかかってきた。
「亜耶、昨日何やってたの?昨日何回も電話したんだけど、亜耶全然出ないから、すごく心配したんだよ。」
「ごめーん、実は、あれから先輩たちとカラオケに行ってたんだ。カラオケうるさくて、里美からの電話に全然気がつかなくてね。」
私は、何とかごまかし通そうと思ったが、里美は私の声のトーンが落ちていることを察知して、すぐに疑い始めた。
「嘘でしょ?亜耶、昨日あれから何かあったでしょ?正直に言いなさい。」
「えっ?別に何もないよ。」
「亜耶...、まさか先輩に襲われたんじゃ...。」
「そ、そんなことある訳ないじゃん。」
里美は、本当に鋭い子だ。私は、もう少し別の理由でごまかさなければならなくなった。
「...実は、昨日、先輩たちに告白されてね、里美の言った通りに断ったんだけど、そのあと何か先輩たちにすごく申し訳ない気持ちになって......。それで今ブルーなんだ。」
「そうなの?本当にそれだけ?」
私は、昨日のあのことは誰にも関わって欲しくなかった。昨日の事実を知れば、里美は絶対に同情して傷つくだろうし、増してや警察沙汰になんかしたくない。だから、どうしても自分の中だけに留めておきたかった。
里美は、疑念を残しながらも、最後は何とか納得してくれて電話を切った。私は、里美に余計な迷惑をかけずに済んで良かった、と思った。これで、今日からまた普段どおりに里美と付き合えるんだと思い、内心ホッとした。

10月に入って、晴天の過ごし易い日々が続いていた。
あれから、石黒先輩やOBたちに直接会うこともなく、また、特にこれといった誘いなどもなく、私は平穏に毎日を送っている。
何だか、あの事件があったのは随分昔のことのように記憶が薄れ、あの時受けたショックもどこかへ消え去っていた。
ただ、夜寝る時になると、あの忌まわしい体験が欲求処理の材料となることが多くなってきた。自分が実際にされたことがあまりにもショッキングで、それがかえって自分を興奮させるのだった。最初のうちは、そんな自分が嫌になっていた。でも、段々そんな自分に対して、仕方のないことなのかな、って思えるようになってきた。
あの事件があってから、私の中にあった2人の自分のうち、非現実的で非常識な方の自分が形を潜めている。この自分の方の欲求は、あの事件によってすっかり満たされたからなのであろうか。
思い起せば、あの瞬間が今までで唯一、非現実的な自分が常識的な自分に勝った瞬間だった。これから先のことはどうなるか分からないけど、非現実的な自分が再び膨らんできて、自分の頭の中を占領しない限り、きっともう二度と自ら危ない橋を渡ることはないだろう。あの日のことが記憶として消えないことによって、私の欲求が満たされるのであれば......。

END