通勤電車で組織的な痴漢計画を実行した体験談

香織が勤務するZ電機の本社は、香織の住む街からは電車で四十分ちょっとの距離にあった。
駅まで歩く時間を入れると約五十分ほどの通勤時間になる。
香織は軽めの朝食を終えると、明るめの赤いスーツに身を包み、髪を後で纏めて背中に垂らした。
赤のスーツはインナーとスカートが一体式でちょうどノースリーブのワンピースの様になっている。
スカートの丈はだいたい膝上十センチぐらいといったところだ。
香織は上着の前をちょうど臍のあたりについた大きめのボタンで留めた。
スーツの赤は香織の白い肌によく合い、その美しさとあいまってハッとするような鮮やかな印象を与える。
香織は鏡に向かいほんの少しだけ化粧をすると、黒いショルダーバッグを肩に掛け、いつも通り七時四十分に部屋を
出た。
マンションから駅へ歩く十分ほどの間に何人もの男が香織へ視線を釘付けにした。
香織は体に纏いつく男達の眼差しを振り切るように足早に駅へと向かった。
香織が駅のホームに上がり電車を待っていると、
「香織さん、おはようございます。」
背後から声を掛けられた。
振り向くとそこにローグの人懐っこい笑顔があった。



「あ、あなた...」
香織は言いかけて、驚きと戸惑いにその後の言葉が出てこなかった。ローグは昨夜とは違い紺のスーツに身を包んでいる。
「昨日、宣言した通りさっそく今日から仕事にかからせていただきます。」
「な、何をしようって言うの。」
なんとなく不気味な恐怖に顔を強張らせながら香織が訊くと、
「それはまあ、後のお楽しみということで...」
「ちょっと、それどういう...」
「あ、電車が来ましたよ。」
香織の言葉を遮ってローグが言った。
振り返ると左手から黄色の電車がホームへと滑り込んで来る所だった。
「それじゃあまた後で。」
ローグは香織の耳元でそう囁くと通勤客の列から離れ、さっと後方へ退いた。
どうやら一緒に乗り込んで何かしようという訳では無いようだ。

香織はホッとしたと同時になんだか拍子抜けしてしまった。
肩越しにローグを振り返ると、スーツ姿の青年は右手を振って見せた。
(一体どういうつもりかしら?)
訝しく思う香織の背中を後に並んだ通勤客が押した。
香織は背後のローグを気にしつつも電車に乗り込んだ。
動き出した電車の中から振り返ると、通勤客の頭の間からホームに立つローグの姿が少しだけ見えた。

通勤電車を見送ったローグは、さっきまでの賑わいが嘘のように閑散としてしまったホームにポツンと一人たたずんでいた。
そして、
「さて、最初が肝心だぞ。」
そう呟くとくるりと身を翻し足早に階段へと向かった。
朝の通勤電車はいつも香織が乗る駅から本格的に混み始める。
香織は乗り込んだドアとは反対側の窓の近くに立った。
電車はまだ身動きが取れないというほどは混んではいない。
香織の前には窓際に寄りかかって新聞を読む背の低い禿げ頭の男がいた。

電車が発車し、香織がその禿げた男越しに窓から見える東京湾をぼんやりと眺めていると、ヒップのあたりに何かが触れる感触があった。
それは何度か、触れては離れ、また触れては離れるという動作を繰り返した。
(...もしかして痴漢?)
そう思った瞬間、いきなりヒップを鷲掴みにされた。
(!)
あまりのことに香織は一瞬パニックに陥った。
何度か痴漢には遭っていたがこれほど大胆にを掴まれたのは始めてのことだった。
いつもなら触ってくる手を掴んで「止めて下さい。」とはっきり言うところだったが、ショックのため咄嗟に声が出なかった。

男の手は香織が何もしないでいるのをいいことに形良く張り出したヒップをねちっこく揉み上げてきた。
香織はしばらく呆然としていたが、はっと我に返ると左手で男の手首を掴んだ。
振り向いて声を上げようとすると、今度は香織の右側からまったく別の手が伸びてきてスカートから覗く右の太腿に触れてきた。
(あっ!)
驚いた香織は完全に声を上げるタイミングを失ってしまった。
一瞬、太腿を撫で上げられる感触に背中を悪寒が走った。
咄嗟に右手で太腿を触る男の手を振り払うが、手はすぐにまたストッキングに包まれた太腿へと戻ってくる。
(何なの、こいつら...)
声を上げるきっかけを失った香織は右手で太腿を、左手でヒップを懸命に防御しようと試みた。
が、男達の手は巧みにそのガードを擦り抜け香織の体をまさぐってきた。

不思議なもので一度タイミングを逃してしまうと、妙に周囲の乗客が気になり声が出しづらくなってしまった。
痴漢達は香織が騒いだりしないのをいいことに、ますます調子に乗ってしつこく触ってくる。
周りに気付かれないように平静を装う香織の下半身では香織と痴漢達の必死の攻防が繰り広げられていた。
ヒップを揉み回す男は今や両手で香織の滑らかな双丘の感触を楽しみ、太腿に張り付いた手はスカートをたくし上げるように徐々に上へと触る位置を移動させつつあった。

香織は恥ずかしさと怒りに震えながら痴漢行為をエスカレートさせつつある男達からなんとか身を守ろうと頑張った。
...が、他の乗客に気付かれないようにするためにはどうしても激しい動きは避けなければならず、痴漢達の蹂躙の前にはほとんど為す術が無い状態だった。

しばらく香織が痴漢達と無言の闘いを続けていると、電車が急速にスピードを緩め始めた。
次の駅が近づいたのだ。
(これで、このケダモノ達から逃れられる。)
香織はドアが開いたらこのいやらしい男達の手を振り払って、ホームに降りて電車をやり過ごすことに決めた。
いつもある程度余裕をみて出勤しているから、電車を一本遅らせるぐらいでは絶対に遅刻することは無いはずだ。
電車はホームへ滑り込みいよいよ停止しようとしていた。
香織は痴漢達の手を振り解くと、反対側のドアへ移動しようとして......ヒップを揉み回していた男の手がいきなり腹部に巻きついて香織を強引にもとの位置へ引き戻した。
「何するんですか!、離して!」
香織は思わず叫んでいた。
こうなっては周りのことなど気にしている場合では無い。

だが、不思議なことに他の乗客は香織の声に何の反応も示さなかった。
(何故?、何故誰も気が付いてくれないの。)
乗客達は見て見ぬ振りをしているというよりも、香織の声自体がまるで聞こえていないといった風だった。
香織は腰をがっちりと掴んで離さない男を睨み上げた。
男は三十歳ぐらいで眼鏡を掛けており、どこにでもいそうな平凡な顔をしていた。
男の目が眼鏡の奥で薄笑いを浮かべているのが不気味だった。
ドアが開き新たな乗客がどやどやと電車の中に流れ込んできた。
香織はたちまち人の波に押され身動きが取れなくなってしまった。
電車が動き出すと、痴漢達はさっそく香織への玩弄を再開した。
背後の眼鏡の男は先程よりもさらに激しくヒップを揉みしだき、右側から伸びた手は香織の内腿をねちっこく撫で回す。
身動きが取れなくなる程の混み具合では香織も思うように防御できず、ほとんどされるがままの状態であった。

俯いてじっと屈辱に耐えていた香織は右側の男の手がスカートの裾を掴んで引っぱり上げようとするのを感じて、
(あっ!、駄目。)
思わず声を上げそうになった。慌てて男の手を掴む右手に力を入れる。
(なんて図々しい奴らなの!)
香織は怒りに顔を真っ赤に染めて男の手を押し止めようとした。
しばらくは香織と男の一進一退の攻防が続いた。
が、均衡は思いがけないところから崩れた。
香織の左側から今度は別の手が伸びてきてスカートをたくし上げ始めたのだ。
(えっ?!)
香織は愕然とした。
背後の男は依然として香織のヒップを両手で執念深く揉み解している。
ということは三人目の痴漢が現れたことになる。

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