きき?かいかい? (ジャンル未設定) 32517回

2010/03/15 06:44┃登録者:えっちな名無しさん┃作者:名無しの作者
周囲を岩壁に包まれた洞窟の中に1人の少女がいた。どういった原理か岩壁が放つほのかな光に照らされた少女巫女装束に身を包んでいる。薄く汗を浮かべ、頬をわずかに上気させながら少女が視線を向ける先には、小柄少女の倍はあろうかという大狸がいた。実際の狸というよりは信楽焼きの置物に近いずんぐりとした体型のその化け狸こそが、今回その巫女装束の少女??日和に与えられた任務の標的だった。人間の言葉、しかもなぜか関西弁を放っていた化け狸の口から今迸っているのは洞窟を崩落させるのではと思うほどの絶叫だ。
その原因は風船のように膨らんだ腹に刻まれた1筋の裂け目。 それを作ったのは彼女が手に持っている刃渡り3寸ほどの短刀だった。 (手応えはあったし、これで終わってくれれば) 大きさこそ化け狸の巨体に比べてあまりにも頼りない武器ではあったが、霊的に強化されたその短刀は妖怪の類にはわずかな傷でも容易に致命傷となるはずだった。 永遠に続くかと思われた化け狸の断末魔の絶叫が萎むように小さくなり、そのままゆっくりと後ろへと倒れていく。 倒れた化け狸はそのまま動かない。 だが日和はまだ気を緩めてはいなかった。 こちらを油断させる演技かもしれないのだ。 それを確認するために慎重に距離を詰めていく。 いつ化け狸が動き出してもいいように短刀を構えながら。 果たして日和の予想は当っていた。 手を伸ばせば届くほどまで近づいたところで化け狸の体に異変が起きる。 しかしその変化の内容は日和の予想していたものとは全く異なるものだった。 日和自身が付けた化け狸の腹にある大きな傷。 その傷から元の化け狸をそのまま縮小したような姿をした無数の小狸が飛び出してきたのだ。 大きさはまちまちで、大きいものでは成人男性の握り拳程度のものから、小さいものでは虫程度のものまでいる。 「きゃっ……!」 反射的に後ろに飛び退りながら短刀を振る日和。 破魔の短刀の軌道にいた何匹もがあっけなく消滅するが、そんなものは後から後から涌いて出る小狸達から見れば無視できるほどの損害なのだろう。 1対1ならばともかく、全く怯むことなく押し寄せてくる大群の前に短刀1本ではあまりにも分が悪すぎた。 手足に小狸がしがみついてくる感触。 次の瞬間、手足にしがみついる小狸の重さが何倍にも増した。 鉛の固まりでもくくり付けられたような重さは、普通の少女に比べれば鍛えている日和でも耐えられるものではない。 抵抗できたのも一瞬、すぐに四つん這いの姿勢で立ち上がることすらできなくなってしまった。 「あててて、まったく殺す気かっちゅうねん」 内容の割に緊張感のない声とともに、傷1つない腹をさすりながら大狸が体を起こす。 「そんな……、あれが効いてないの!?」 「んー、ちゃんと効いたで。 せやから治療費は払ってもらわんとな」 大狸の口の端がいやらしく上がる。 戦闘の最中とは違い、値踏みするような粘ついた視線を感じ日和は背筋が寒くなった。 治療費と言っても目の前の大狸が人間の金を欲しているわけがないことは、それほど実戦の経験がない日和にもわかる。 「ち、治療費って……ひゃぅ!?」 1段高くなった日和の声が洞窟の中に反響する。 小狸の中でも特に小さいものたちが袖や裾から侵入を開始したのだ。 追い出そうにも手足を動かせない日和はせいぜい身体を揺することくらいしかできず、その程度では明確な意思を持って進んでくる狸の食い止めることはできない。 そして巫女装束の下に潜り込んだ小狸は思い思いの場所に陣取ると舌を這わせ始めた。 膝裏、腋下や脇腹などの敏感な部分で這いまわる軟体の感触に日和は身を捩る。 「や、やだ……入ってこないで。 くすぐったいから舐めないでぇ」 「動いて汗かいたせいか、ちょっとしょっぱいで」 感覚が繋がっているのだろう、大狸の口にした感想に日和は頬を染める。 ただ、そんな羞恥は次にされることのまえでは文字通り前菜のようなものだった。 「そ、そんなとこ匂いかいじゃだめぇ」 小狸の1匹が下腹部でクンクン鼻を動かしているのが感じられたのだ。 「ここは小便の匂いがしよる。 ちゃんと拭かなあかんで」 大狸の無遠慮な言葉の直後、少女にとって最も大切な部分を舌がなぞった。 「ひうううぅぅぅ」 くすぐったさを上回る怖気に日和の口から細い声が上がる。 だが何度も往復する内に不思議な感覚が沸き上がってきた。 今も全身を這いまわる舌によるくすぐったさとは少し異なる痺れるような感覚。 「お、こっちの方が反応しとるわ」 「いたっ! いたいよぉ!」 下腹部に意識を向けていたところで、いきなり別のところを襲った痛みに日和は悲鳴を上げた。 下腹部と同様、まだ未成熟で膨らみかけたばかりの胸に取りついて舌を這わせていた小狸がその先端に歯を立てたのだ。 先端が噛み千切られそうな鋭い痛みに涙を浮かべると、今度はまるで慈しむように優しく舌を這わされる。 ジンジンとした痛みが解きほぐされて、下腹部から生まれるものとは似ているようで異なる何かが込み上げてくる。 それを繰り返しされている内に痛みは減り、その不思議な感覚だけが強くなってきた。 頭の芯が痺れるような感覚の中で終わりが近づいてきているのがわかる。 そこへ至ればもう戻れないだろうという直感的な恐怖と、早くそこへ辿り着きたいという本能的な欲求。 「やだ、なにかくる。 きちゃうようぅ!」 唯一自由に動かせる首を振って耐えようとする日和。 しかしそれを嘲笑うように小狸は責めの手を緩めない。 「んひゃぁ、だめ、だめええぇぇぇ!」 止めは日和の秘唇で本人も知らぬ間に硬さを増していた小粒を甘噛みされたことだった。 包皮の上からとはいえ、一瞬で頭の中を白く焼き尽くされ初めての絶頂を味あわされる。 「あ、あぁ……」 背筋が反り返り搾り出すような声が漏れる。 そして関節が砕けんばかりの痙攣の後には、反動のように弛緩が訪れた。 下腹部に生まれた尿意。 止めなければと思う暇さえなく溢れ出した小水が袴の緋色を濃く染め上げていく。 「せっかく綺麗にしてやろう思たのに、また汚してどうすんねん。 これはお仕置きせなな」 「お、おしお……ひゃ」 新たに不浄の穴に生まれた舌の感触に、日和は反射的にそこをキュッと窄めた。 その反応をまるでたしなめるように、全身で我が物顔で動きまわる舌の動きが激しさを増す。 倍増するくすぐったさに意識が逸らされた隙に、肛門を狙っていた舌が先端を潜り込ませてきた。 先端だけとは言え、体の中で別の生き物の1部が入ってきている感触に日和は身を震わせる。 しかも小狸は舌先だけではなく、その全身を潜り込ませようとしてくるのだ。 「はいってくるぅ。 こんなの」 もはや力が入れられない日和の括約筋は驚くほどの伸縮性を見せ、小さいとはいえ狸の全身を飲み込んでいく。 「むりぃ……むりだよぉ……」 なんとか全身を捩じ込もうと身を捩る小狸の体毛に穴の中と外を同時にくすぐられる。 やがて尾だけを残して小狸が腸内へと納まると、まるで日和自身から尾が生えているかのようになってしまった。 「はっはっはっ、四つん這いで尾まで生やしとる。 こりゃ譲ちゃんの方がよっぽど狸みたいやで」 「う、うぅ……」 大狸の勝ち誇った声が響く中で、日和は体内の異物感にただ呻き声を上げることしかできない。 だがそれもわずかな間だけだった。 息苦しいほどの異物感が、あたかも氷が溶けるように薄れていくのだ。 1秒ごとに楽になっていく自らの体に、日和は安堵よりも不安を覚えていた。 「中に入ったんが同化しとるんや。 これで一生尾付きやな。 まあどうせここでずっと暮らすんやから問題ないやろ」 「そ、そんな……」 自分が人でなくなっていく。 不安を肯定する言葉に日和の中に絶望感が込み上げてくる。 「穴が塞がっても、排泄物はそいつが吸収してくれるから心配せんでもええで」 「ほなせっかく尾が付いたんやから、それ使ってみよか」 大狸のその言葉とともに、日和の尾がちょうど自身の秘園を覆うように身体に密着し前後に動き始めた。 「ふわぁ……や、やぁ……」 尾の毛が刷毛のように秘唇全体を擦り上げる。 特に最も敏感な小粒にチクチクと刺さってくる痛痒感がたまらなかった。 加えて日和の意思に反して分泌される愛液尾が吸うことで生み出される快感が一層高まってくる。 先ほど初めて経験した高みが、再び急速に近づいてきた。 「だめ、また……あ、あ、あああああ!」 加減を付けて噛まれる胸の先端や全身を這いまわる舌の感触に後押しされて、日和は成す術もなく2度目の絶頂へと打ち上げられた。 2度目の絶頂に日和の全身がガクガクと痙攣する。 それが治まる頃、ようやく下腹部に張りついていた尾がその身を離した。 しかしそれによって日和が安堵を覚えたのは一瞬のことだった。 今度は秘唇全体ではなく、その中の1点に尾の感触が触れたのだ。 絶頂の余韻で霞む頭の中でも、それが何を意味しているのかがわかった。 「そ、それだけはぁ……だ、ひゃわああ」 静止の言葉も言い終わらぬ内に、滴るほどに粘液を吸った尾が膣内へと一気に埋没する。 先端から根元の方向に撫でられることで逆立った毛が膣襞と絡み合い、痒みと快感の混ざり合ったものが爆発的に沸き上がる。 「おーおー、キュウキュウ締め付けよる。 そんなにええんか?」 「ひゃ、ひゃいぃ……きもひいいれすぅ……こんなの、おかしくなるぅ……」 経験したことのない感覚に翻弄され自分が何を言っているのかもわからない。 ただ大狸の質問に感じているままを口にする。 「そうかそうか、正直になった褒美に尾の方の感覚も繋げたるわ。 良すぎて狂うかもしれんけどな」 直後、尾によって膣壁を擦り上げられる感覚に、尾の側が膣壁によって締め付けられる感覚が加わって日和の蕩けかけた脳を貫いた。 大狸の言葉通り気が狂いかねない快感に、もはや言葉にならない叫びが上がる。 地面に四つん這いになり尾を生やし、言葉とも呼べない吠声を上げながら快感を貪ることだけに集中する。 その姿にもはや人間としての尊厳はなく、完全な牝と成り果てていた。 そんな日和の姿を眺めながら大狸は満足そうに笑みを浮かべた。 (別れ道か……聞いてないわね) 黒を基調とした修道服とヴェールに身を包んだ少女、クリスは事前に聞いていた情報との食い違いに足を止めた。 太陽の下であれば宝石のように煌く青い瞳を、それぞれの道の先へと順番に向ける。 だが、岩壁が放つほのかな光だけが頼りの洞窟の中では、その奥まで見通すことは到底できそうにない。 それでも、クリスの持つ視覚とは異なる感覚が多少の情報を教えてくれてはいた。 向かって右側の道から感じられるのは、かなり強大な妖の気配。 これがたぶん、話に聞く化け狸のものだろう。 そして向かって左側の道。 こちらから感じられるものは、いささか奇妙なものであった。 人と妖、本来根本的に異なるはずのそれが混ざり合った気配。 そんな気配を持つ存在に、クリスはいくつか心当たりがあった。 (憑かれたか……) もう1つの可能性としては、人と妖の間に生まれた子どもというものもある。 だが、いかに歳経て変化したとはいっても元は狸、人との間にそうそう子を儲けることなどできるはずがない。 加えて、この洞窟にある気配は化け狸と思われるものが1つと、その奇妙な気配が1つだけだ。 脳裏に浮かぶのは、自分と同じ年頃の少女。 クリスと同じく人に仇なす存在を狩ることを生業としている彼女、日和がこの洞窟で消息を断ったのは2週間ほど前のことだった。 もしこの奇妙な気配が化け狸と日和の子であるとすれば、彼女自身はもうこの洞窟に、というよりこの世にいないことになってしまう。 (別に日和の生死なんてどうでもいいけれど) こんな事をしている以上、命の危険など常に身近に存在している。 死ぬのは単に本人の力が足りなかっただけのことだ。 だいたい、クリスと日和は友人だったわけではない。 日和の方がどう思っていたかは本人に聞かない限りわからないが、少なくともクリスにそのつもりはなかった。 仕事の都合上、時には協力相手として、時には競争相手として、顔を合わせたのもせいぜい両手の指で足りるほど。 年の頃が近い事もあって、同業者の中では2人はライバルとして認識されていた。 そしてクリスとしてはむしろそちらの方がしっくりとくる。 日和が倒せなかった相手をクリスが倒せば、どちらが優秀かということを証明できる。 それが、クリスがこの洞窟に足を運んだ理由だった。 (まあ、生きているのなら、ついでに助けてあげてもいいのだけれど) そんなことを考えながらも、周囲の岩壁や地面を念入りに調べていく。 (左側はまだできてそれほど時間が経っていないか……) 左右の道と、クリスが今まで歩いてきた出口に繋がる道を比較してそう結論付けた。 本来1本道であるという情報と合わせれば、化け狸が捕らえた日和を監禁するために左側の道を作ったと考えるのが妥当だろう。 わずかな逡巡の後、クリスは左側の道に足を向けた。 別に日和の救出を優先させたわけでもなければ、右側から感じる力の大きさに怖気づいたわけでもない。 これだけ大掛かりなことができるだけの力を持つ相手ならば、少しでも情報を集めておくのが得策だと思っただけだ。 直接対峙したであろう日和の話が聞ければ、まあ作戦を考える上での足しくらいにはなるだろう。 警戒しながら左の道を進んでいくと、あっけないほど簡単に、クリスはその最奥にまで到達する。 そしてその行き止まり、少しだけ広くなっている場所の中心にクリスは目当ての少女を発見した。 以前会ったときに身に着けていた日本の神に仕える者が着るという朱と白の衣は今はなく、全裸で手足を折り畳むようにして地面の上に丸くなっている。 (寝ているのか。 ……っ!?) 岩陰から息を潜めて観察していると、それまで日和の身体の陰になっていた場所から人には存在しない器官が姿を現した。 (尾……ということは、やはり……) 根元の部分はクリスの位置からでは確認できないが、それが床を打った時に日和が身じろぎをしたところを見ると感覚はあるらしい。 ここに至るまで、特にクリスの侵入を阻むための仕掛けの類は存在していなかった。 そしてそれはこの広間に関しても同じように見えるし、日和の身体に鎖のような逃走を妨げるための何かが付けられている様子もない。 それはつまり中から外へ出る際にも障害が存在しないということのはず。 少なくとも物理的には。 にもかかわらず日和がここに留まっているということは、精神的な束縛が施されている可能性が高い。 これからどうするか、クリスが思案していると、不意に日和が身体を動かした。 気怠げにのそりと身を起こし、四つん這いの状態で顔を上げて鼻を鳴らし始める。 「んんー、あれ……クリスちゃん?」 完全に気配を消していたはずなのに突然名前を呼ばれ、クリスは息を詰めた。 日和はなおも鼻をクンクン鳴らし続け、続けてあたりを窺い始める。 その仕草はその尾が示す通り本物の狸にでもなってしまったかのようだ。 ただ、どうやら人間だった頃の記憶はあるようだし、クリスの存在に気付いても敵意のようなものは感じさせない。 こうなってしまっては隠れていても無意味と判断し、クリスは岩陰から姿を現した。 「ああー! やっぱりクリスちゃんだ?!」 クリスの姿を見た日和は満面の笑みで駆け出した。 四つ足という人間が走るにはかなり不便な状態であるにもかかわらず、それを感じさせない速さ。 クリスも気を抜いていたわけではない。 ないのだが、あまりにもあけすけで邪気のない笑顔に呑まれて一瞬だけ反応が遅れてしまった。 せめて少しだけでも悪意のようなものがあれば、経験から反射的な行動が取れたかもしれない。 体当たりと言ってもいいほどの勢いで肩に体重をかけられ、そのまま押し倒されてしまう。 覆い被さってくる小柄な体躯。 首筋にかかる熱い息に、逆にクリスの心に寒気が走った。 この体勢、そのまま首に噛み付かれでもしたらただではすまない。 「ちょ……離れなさい」 未だに敵意のようなものは感じないが、例えば子どもが笑みを浮かべながら虫を殺すように次の瞬間歯を立てられていてもおかしくない。 元々、年齢の割りに幼さの残る話し方をする少女ではあったが、さっきの様子はそれに輪をかけて幼すぎた。 「クリスちゃん、クリスちゃんだー!」 幸いにもクリスの予想は現実のものとならず、日和は一頻り頬ずりをすると満足したように密着させていた上半身を起こしていった。 とはいえ、まだ日和の身体は仰向けに倒されたクリスの上に馬乗りになった状態である。 クリスも何とか跳ね除けようとするのだが、両肩に置かれた日和の手はまるで昆虫の標本を止めるピンのように、クリスの身体を地面の上に固定して放さない。 「んんぅー」 と、日和はじっとクリスの顔を見つめ、今度は目を閉じ軽く口を突き出すようにして上半身を倒してくる。 何をしようとしているかは一目瞭然だった。 「……ッの、いいかげんにしなさい!」 2人の身体の一部が接触する。 ただしそれは柔かな唇ではなく、頭部の中でも特に固い部分の1つである額同士でだ。 人間のパーツ同士がぶつかったとは思えないような、重い音が洞窟内に響き渡る。 さすがにこれは効いたのか、日和の身体が後ろへと飛び退いた。 (なんて石頭……) ようやく自由になった身体を起こし額をさする。 加減をする余裕もなかったせいで、頭の芯まで響くような痛みがまだ残っている。 自分からやったクリスですらこの状態、目を閉じていて心構えができていなかった日和は唸り声を上げながら地面でのたうち回っていた。 その身体が突然ピタリと止まる。 あまりに唐突なその変化に、クリスの脳裏に嫌な想像が走り抜ける。 「ん……、あれ?」 しかしそれは杞憂だったらしく、むくりと身体を起こすと周囲をキョロキョロ窺いはじめる。 その視線はクリスに向けられたところで止まった。 「クリス……ちゃん? あれ、でもどうして……」 その反応に、クリスは胸の中でほっと息をついた。 どうやら正気に戻ったらしい。 「その呼び方は止めなさいって言ったはずよ」 ちゃん付けで呼ばれると、日和の側にそんな気はないにしてもまるでキリスト教徒であることをバカにされている気がするのだ。 さっきの仕返しも兼ねてデコピンを1発。 「いっ?????!」 額に追い打ちをかけられた日和が再びのたうち回る。 今度はそれが治まるまでに数分の時間が必要だった。 「クリス……や、やさしくしてね?」 目の前で四つん這いになった日和が、こちらにを向けながら言う。 羞恥のあまりか、高く掲げられた日和のは左右にゆらゆらと揺れ、誘っているかのようにすら見えた。 その腰の動きに合わせて左右に揺れている尾をとりあえず掴んでみる。 「ひぁん!」 「ちょっと、変な声出さないでくれる?」 ただでさえこんな状況では、変な気持ちが込み上げてきそうになるのに。 「だ、だって……やさしくって言ったのに……」 次はクイクイッと引っ張ってみる。 今度は日和の背中が2回跳ねた。 (これはなかなか面白いかも……) 思わずその行為に没頭しそうになる。 湧き上がる嗜虐的な気持ちを理性で押さえ込んで、クリスは尾から手を離した。 「これは私には無理ね」 日和に生えたこの尾を何とかできないかと調べてみたのだが、クリスはあっさりとそう結論を出した。 「そんなぁ……クリス、悪魔が取り憑いた人とか助けたことあるんじゃ……」 「私の専門は幽霊や悪魔みたいな実体のないタイプだから。 この手の肉体的に融合しているのは苦手なの」 そう言ってやると日和は目に見えるほど落胆した。 まあその気持ちもわからないでもないだろう。 こんな物をいつまでも付けておこうと思える方が珍しい。 「場所が場所だけに、無理に引き剥がそうとすればこれからの生活に支障を来しそうだし。 一応聖水かけてみる?」 修道服の下から透明な液体が入った瓶を取り出しながら聞くと、日和はブルブルと震えながら断った。 「まあ、それが賢明ね。 今のあなた、人と妖が混ざり合ってるから、ここを出たらちゃんとした所で処理してもらいなさい」 そう言って頭を次の問題に切り替える。 ここを出た後のことを考えるのは、それこそここを出た後でいい。 「あれだけ大騒ぎしたら、さすがに気付かれてるだろうし」 可能ならば不意を打てればと思っていたのだが、さすがにそれはもう望み薄だろう。 まあ、仮に騒がなかったとしても、匂いなり何なりで気付かれていた可能性も高いだろうが。 とはいえ、クリスは1つだけ気になる点があった。 何故あれだけ大騒ぎしたにもかかわらず、当の化け狸が姿を現さないのか。 (舐められているのか……? だとすればそれを利用して……) そんなことを考えていると、「あ、それは大丈夫だと思う。 たぶん気付いてないと思うよ」 手で胸と股間を隠しながら、日和が前提から覆すようなことを言った。 クリスとしても全裸でいられるといささか落ち着かない部分もあるのだが、かといって今は着せておけるようなものはない。 クリスはロングワンピースの下には下着しか身に着けていない。 ワンピースの方は中に色々と道具を仕込んであるため、これから化け狸と一戦交えることを考えれば貸すわけにはいかないし今身に着けている下着を他人に貸すのはさすがに躊躇われた。 「ここに来る途中、別れ道あったでしょ? こっちの物音とか、向こうには聞こえないようになってるの」 クリスの疑問に答えるように、日和は化け狸が気付いていない理由を説明する。 だがそれは新たな疑問を生むだけだ。 確かにそんな仕組みになっているなら気付かれていないかもしれないが、今度は何故そんな風にしているのかがわからない。 「そんな風にしていたら、こっちで何かあった時どうするの? 実際私が今こうやって来てるわけだし」 日和自身は正気を失っていて本人の意思で逃げることはないとしても、あまりにも無用心すぎる。 「あ、あの……ね。 この洞窟は……元々1本道だったの」 さらに問い詰めると途端に日和の言葉が要領を得ないものになっていった。 「それは聞いてるけど。 あなたを閉じ込めて……いたわけではないけれど、とにかくあなたを置いておくためにこちら側を作ったんじゃないの?」 「うん、そう……そう、なんだけど……」 加えて、日和の声は段々小さくなってよく聞き取れなくなっていく。 「あのね、この2週間の記憶ってぼんやりとしか思い出せないんだけど」 イライラしてきたクリスがデコピンの構えで脅すと、日和はそう前置きしてようやく話し始めた。 しどろもどろになりながら日和の話した内容を要約すると以下のようなものになる。 『尾を生やされ、そこから生み出される快楽を教え込まれた日和は寝ても覚めても自慰に耽っていた』                              ↓ 『最初は喜んでいた化け狸も、四六時中喘ぎ声を聞かされていては寝ることすらできないと激怒』                              ↓ 『防音処理を施したこちらの道を作って隔離された』 顔を真っ赤にして語り終えた日和を前に、クリスは長々と溜め息を吐いた。 (まあ、おかげで助かったわけだし、この子も正気を失っていたから仕方ないんだけど……) 実際、化け狸と日和が同じ場所にいたら、もっと面倒なことになっていただろう。 理屈ではそうわかっているのだが。 クリスがもう1度深い溜め息を吐くと、日和はますます顔を赤く染めて俯いてしまった。 「ふぅん、確かにそれは、あなたの苦手なタイプね」 気を取りなおし、日和自身が化け狸と戦った時の話を頭の中で整理する。 霊刀による一点突破の一撃必殺を身上としている日和にとって、数に任せて押し寄せてくる相手は遠距離型の相手と並んで最も苦手なタイプだろう。 それに対してクリスの方は、その手の質より量なタイプはむしろ得意な相手と言える。 「クリスなら大丈夫だよね。 いっぱい出てきてもまとめて燃やしちゃえるし」 クリスの戦闘スタイルを知っている日和は随分と気楽にそう言ってくれる。 だが、クリス自身はそこまで楽天的にはなれなかった。 確かに日和が化け狸に遅れを取ったのは相性の悪さが原因の1つだろう。 だが、その相性の悪さが偶然ではなく、狙って作られたものだとしたら話は全く違ってくる。 化け狸の手札が日和の話だけならば勝つ自信はある。 彼女だって一応はプロなのだから、普通なら日和にだってこのくらいのことはわかるだろう。 それができないのは、クリスヘの信頼はもちろんだが、一刻も早くここから出たいという思いから希望的観測にすがってしまっているだけだ。 クリスの手前明るく振舞ってはいても、この2週間のことで参っていないはずはない。 黙って思考を巡らせていたクリスの様子に、日和もようやくクリスの考えていることに思い至ったのか表情を曇らせた。 そして何事か口にしようとして、けれどその言葉は腹から響いたクルクルという音に遮られてしまう。 「あなたという人は……」 「ご、ごめんなさい……」 シュンと俯いた日和は、次の瞬間ばね仕掛けの人形のような勢いで顔を上げた。 その顔に浮かんでいるのは焦りの表情だ。 「ど、どうしよう、もうすぐ来ちゃうよ!」 「来るって……化け狸が!?」 何故そんなことがわかるのか。 そう目で問いかけるクリスに日和は上擦った声で答える。 「もうすぐ……食事の時間だから……。 そ、そうだ!」 「今度は何?」 「作戦、思い付いたの。 あ、あのね……」 日和の提案した作戦。 それを聞いてクリスは耳を疑った。 「本当に、それでいいの?」 「うん、大丈夫だよ。 もう慣れちゃったから」 その笑顔が無理に作ったものだということくらい、短い付き合いでも嫌というほどわかった。 けれど、「もう時間もないし、他に良さそうな手もないでしょ?」 そう言われてしまえば、クリスには反論の余地がない。 「でも、それならいっそ正面から」 勝つためなら何だって利用する、そう普段公言している自分が何を言っているのかとは思う。 当然、そんな言葉では日和の決意は変えられなかった。 こういう時の彼女が度を越すくらい頑固だということは、これもまた短い付き合いの中でも嫌というほどわかっていたことだ。 術の発動に伴って、日和の視界から壁際に立ったクリスの姿が消えていく。 クリスの使う術の1つ、人外の存在に対してほぼ完璧なまでの隠密性を持つ術だ。 欠点は、その状態では移動も攻撃もできないということ。 正に隠れるためだけに特化した術。 実際には視覚情報としては見えてはいてもそれを見えていると認識されないようにしているだけなのだが、実際にこうして体験してみると自分が人ではなくなってしまったことを日和は改めて思い知らされた。 (人間に戻るためにも頑張らないと) 大切なのは怪しまれないことだ。 その為の自然な言動を知るために、日和は半透明な膜が張ったようにぼんやりとしているこの2週間の記憶を手繰り寄せた。 クリスのおかげで正気を取り戻した今となっては、思い出すだけで震えがくる行為の数々。 だが、これから正気を保ったままで、自分の意思でそれをやらなければいけないのだ。 この2週間、眠っているときにしていた姿勢で化け狸を待ちながら、イメージの中でシミュレーションを繰り返す。 頭の中で繰り返したその行為が10回に達しようかという頃、狸の口の構造でどうやって出しているのか口笛を吹きながら姿を現した。 「飯の時間やで?。 なんや、寝とるんかい?」 化け狸がすぐ隣まで歩いてくる気配。 「ほれ、起きんかい。 嬢ちゃんの大好きな飯の時間や」 肉球と毛の感触が肩に乗せられる。 それをキッカケにして日和は身を起こした。 「ん……あ、おはようございます、旦那様」 躾られた呼び方をしながら、さも今目を覚ましたばかりとあくびを1つ。 「また1人でやっとったんか? ま、ここじゃ他にすることもないやろうけどな」 四つん這いの日和の目の前に半勃ち状態のペニスが突き付けられる。 思わず目を背けたくなる衝動を、日和は必死で押さえ込んだ。 「ん、どした? はよし」 一瞬の躊躇を見咎められ、日和は慌ててその醜悪な肉塊に顔を寄せる。 「い、いただきます」 これもまた躾られた通り、そう断ってから舌を伸ばした。 舌先に感じるおぞましい熱と、むせるほどに濃密な臭。 嫌悪感を懸命に押し殺して舌を這わせていると、徐々に硬度と体積が増してくる。 限界まで膨らんだところで、先端を口に含んだ。 まだ先端だけだというのに、顎が外れそうなほどの太さが口内を占領する。 舌の上全体に塩っぽい味が広がり、吐き気を催す性臭が鼻に抜けていった。 それでも日和は懸命に頭を、舌を、動かし続ける。 「なんや、今日はいつもより熱心やな。 そんなに腹空かせてたんか?」 ねぎらうように化け狸は前足を日和の頭に乗せる。 それに対し、日和はペニスを口に収めたまま上目遣いで化け狸の顔を見た。 (大丈夫、バレてない。 あとは早く……) 少しでも早く苦痛の時間を終わらせるために、日和はそれまで以上に行為を激しくさせた。 狙うのは化け狸の射精の最中。 日和の記憶の中で、最も化け狸が気を緩める瞬間は射精中だ。 だからこそ、その瞬間がクリスにとって最大のチャンスになる。 それが日和の立てた作戦。 そのためには、まず自分が化け狸を射精に導かなくてはならない。 「あー、あかん!」 突然化け狸が上げた叫び声に、日和はこちらの考えが見透かされたのかと口を離してしまった。 ところが当の化け狸は日和、そして今はちょうど化け狸の背後にいるはずのクリスに目もくれず、「ひい、ふう、みい……」 と短い手指を折りながら何かを数え始める。 何が何だかわからないまま、それでもとにかく日和は行為を再開させようと顔を近づけた。 「あー、もうええ。 それより今日はこっちや」 化け狸はその巨体からは想像できない動きで、呆然とする日和の背後に回る。 日和もそれに合わせて身体の向きを変えようとしたが、腰の上に置かれた前足でそれを制された。 「な、何をするんですか?」 「今日は下の口から飲ませたる」 「え……あ、ひぁぅ!」 荒々しい手付きで尾を扱かれると、本人の意思に反して日和の身体は異物を受け入れる準備を整えてしまう。 さっきまで口で感じていた牡の昂ぶりを下腹部の中心で感じた次の瞬間、それは一気に体内へと侵入を開始した。 「ふあ、ああああ」 2週間、自分の尾で慣らされた膣洞は驚くほどの柔軟性を発揮して化け狸の剛直を飲み込んでいく。 自分の尾とは違う熱さと硬さに、知らず甘い吐息が零れてしまう。 化け狸に挿入されるのは2週間ぶり、2度目だった。 最初の日に犯されて以来、口でこそ毎日感じていたが、改めて膣で感じるその存在感はまさに圧倒的だ。 自分の尾が所詮代替物でしかなかったと思い知らされる激感。 自分の身体が本当に求めていた物は、この逞しい肉塊以外にありえないという確信が脳を駆け巡る。 (あ……クリスちゃんに、見られてる……) 口での行為の最中は、化け狸の巨体が遮蔽物になってクリスから日和の様子は見えないはずだった。 だが、現在の後ろから犯されている状態では2人の間に遮る物はない。 「ふあ、……や、やだ……ああん」 恥ずかしさから顔を伏せようとするのに、敏感な膣壁を擦り上げられるとどうしても背中が反り返ってしまう。 クリスの側からはともかく、日和にはクリスの姿は見えない。 それがさらに日和の心を沸き立たせた。 化け狸に荒々しく突かれてこんな反応をしている自分に、クリスは軽蔑した視線を送っているのだろうか。 もしかすると、この手の行為に免疫がなさそうなクリスは顔を真っ赤にしながら食い入るように見ているのかもしれない。 「なんや、1人でやりすぎてユルユルになってるか思たら、随分とキツイ締め付けやないか」 化け狸のペニスとクリスの視線。 前後から挟み撃ちのように押し寄せてくる刺激に脳が沸騰していく。 そんな頭の中が爆発しそうな快感の中で、胎奥に第一射を感じた。 これもまた自分の尾では生みだしえない快感に理性が押し流されていく。 「出てる……熱いのがいっぱいでてるよぉ……」 クリスに伝えるために言っているのか、ただ単に自分の快感を高めるために言っているのか。 自分でもよくわからないままに出た言葉を合図に、日和の正面からクリスが姿を現した。 その視線は引き締められていて仕事に向かう時の退魔師の表情だ。 それでも、その普段は透き通るほどの白い頬がわずかに朱に染まっていることに日和は気が付いた。 「な、なんや!?」 いまだにビュクビュクと精液を溢れさせているペニスから、化け狸の狼狽が伝わってくる。 ただし、現実は日和が考えていたものとは多少食い違っていた。 予定では化け狸の背後から攻撃をしかけるはずだったのに、途中で身体の位置を入れ替えられたせいで正面から攻撃せざるをえなくなってしまっている。 その違いによる反応の差はわずかではあるだろうが、時としてそのわずかな違いが致命的となる場合もある。 特に日和やクリスがいる世界では。 そこから先の日和の行動は順序だてた考えがあってのものではなかった。 子宮を焼く汚濁液は日和から筋道を立てて考えるだけの余裕を根こそぎ奪っている。 それでも、クリスの姿を目にしたことでわずかではあるが取り戻した理性が何かをしなければと思わせ、それに辛うじて本能が答えたという程度の行動。 日和がクリスの姿を見ることができたこと、これもまた化け狸が身体を入れ替えたことによる変化だった。 なけなしの霊力を掻き集めて膣へと送る。 そこらの低級霊に対してすら、微風程度の効果しかないだろうわずかな力。 「がっ!?」 それでも深く深く挿入されている無防備な性器を介して送り込めば、一瞬動きを止める程度の役に立った。 四つん這いになっている日和からは見えなかったが、クリスが化け狸に何かをしたのは確かだ。 次の瞬間、腕を強く掴まれ引き上げられる。 「あ……」 体内からずるりとペニスが抜けていく感触。 それだけで軽く達しながら、自分を抱きかかえるクリスの肩越しに化け狸が前足を振り上げているのが見えた。 「クリ……」 警告の言葉も言い終わらぬ内に、化け狸の前足がクリスの背中を打ち、2人まとめて空中に放り出される。 「燃えなさい……!」 吹き飛ばされながら、耳元でクリスの声を聞いた。 その言葉を合図にして洞窟を白い光が満たす。 目を閉じても防ぎ切れないほどの凄烈な光。 人ではなくなった身にはお世辞にも穏やかな光とは言えないはずなのに、どこか優しいそれに包まれながら、日和は意識を失った。 「……リスちゃん……クリスちゃん!」 耳元でやかましく名前を連呼される。 (その呼び方は止めなさいって何度も……) 闇の底に沈んでいた意識が浮かび上がってきて、最初に思ったのがそれだった。 そのことに思わず吹き出しそうになって、背中の痛みに邪魔をされる。 (ああ……そういえば最後に一撃受けて……) 何とか術の起動に成功して発動までは確認したものの、さすがに気が抜けて意識を失ってしまったのだ。 目を開けると至近距離に大粒の涙を零す少女の顔があった。 「何、泣いてるの。 ……つっ、あの狸見た目通りの馬鹿力なんだから」 起き上がろうとすると背中が痛むが、我慢できないほどでもない。 背中に手をやってみると修道服の生地がズタズタになっている感触があった。 とはいえ、命に比べれば少なすぎる被害と言ってもいいくらいだろう。 「ごめ……っく、ごめんね……わたしをかばったせいで……」 「別にあなたをかばったわけじゃ……」 霊的に強化された修道服を着ている分、自分の方が攻撃を受けても被害は小さい。 防御の手段を持たない日和が仮にあの一撃を受けていれば、まず間違いなく命に関わるほどのダメージを負ったはずだ。 だから避けられないと判断した時点でクリスは自分が受けることを決めた。 1人無傷で1人死亡と、1人軽傷で1人無傷。 どちらがいいかなんて考えるまでもない話だ。 それだけの話。 それを説明しても、目の前の少女は一向に泣き止まない。 「そ、それに……そもそもわたしがいなければ、あの攻撃自体なかったはずだし」 挙句の果てにはそんなことを言い出す始末だ。 クリスの術による白炎は人間には害がないが、今の日和にまで効果がないかはわからない。 というより十中八九日和もまとめて焼き尽くすだろう。 日和の身体を化け狸から引き剥がし、さらにある程度離れるためのタイムラグを考えなければ、確かにあの一撃を受ける前に術を発動させることはできた。 だから日和のその言葉に、一応の理がないわけでもない。 ただまあ前提からして間違っているわけだが。 「そもそも、あなたがいたから先手が取れたんでしょうに。 正面から戦っていれば、一撃程度では済まなかったはずよ」 「でも……」 それでもなおも食い下がろうとする日和にさすがにクリスも疲れ始めてきた。 次は、自分が捕まらなければ、とか言い出すんだろうか。 (それこそ見当違いもいいところなのに……) クリスは日和を助けに来たわけではない。 断じてそんなことはないのだ。 「ところで、私はどれくらい気を失っていたの?」 まともに相手をしていると、無限に続きそうな日和の言葉を遮るためにこちらから問いかける。 「ごめんなさい……わたしも気を失ってたから……」 「いちいち落ち込まないの」 デコピン1発。 「いたっ、まだ最初の頭突きのが残ってるのにぃ……」 「ふぅん、それならそんなに長く寝ていたわけではないわね」 「ひ、ひどいぃ……」 やっと止まった涙をまた零しそうになりながら、日和は唇を尖らせた。 「とにかく帰りましょうか。 服だって何とかしないといけないし。 あなたの、ミコショーゾク……だったかしら、あれは反対側の道にあるの?」 「あ、あると思うけど、狸のあれでドロドロにされちゃったし着たくはないかも……」 「それは……嫌ね。 なら近くの町で調達しないとか……」 そう言って立ち上がった瞬間、周囲の様子が一変した。 無機質な岩壁が鮮肉のような桃色に染まり、巨大な生き物の腸の中にでも瞬間移動したかのような錯覚に陥る。 足の裏に感じるブヨブヨとした柔らかさは、生理的な嫌悪感を呼び起こす感覚だ。 (足の裏……?) 直に触れるその感覚。 膨れ上がる違和感に視線を落とし、クリスは驚きのあまり身を強張らせた。 身を包んでいた修道服が一片も残さず消え去っていたのだ。 頭に手をやってみるが、その手に返ってくるのはヴェールではなくショートカットにした金髪のさらさらとした感触。 下着すら消え、日和同様完全に一糸纏わぬ姿になったクリスは、慌てて隣にいる日和に視線をやった。 「日和っ!」 日和はその状況の変化に気付いていないようだった。 それよりももっと切実な問題が起こっていたのだ。 腹を抱えるようにして蹲り呻き声を上げる少女に、クリスの混乱に拍車がかかる。 その混乱の中でも、これが幻であることにクリスは気付いていた。 周囲の変化だけなら強制的な転移の可能性もなくはなかったが、服が消えている点からそれはない。 問題なのは誰が何の為にやっているかだ。 いや、この際何の為にという方はそれほど重要ではない。 そんな物はおおよそ見当がつく。 本当に重要なのは誰がの方だ。 多少消耗しているとはいえ、こうもあっさりクリスが幻術にかけられるということは術者はかなりの力を持っているはず。 「うぅ……いたぁ、動か……ないでぇ……」 周囲の気配を探っていたクリスの耳に届いた日和の声。 (動く……? まさか!?) 最悪の想像に驚愕するクリスに追い打ちをかけるように、周囲の状況にさらに変化が起こった。 天井や壁から肉色の触手が2人目掛けて飛び出してくる。 それを視界の隅に収めて反射的に飛び退こうとしたクリスの身体がガクンと揺れる。 見れば床からも生えた触手が足に巻き付き、彼女の移動を封じていた。 迎え撃とうにも聖具は全て修道服ととも消えてしまっている。 本来のクリスは服もそのままで、触手なんて存在しない洞窟の中にいるはずだがそれがわかっていてもこの世界の中では何の役にも立たない。 素肌に巻き付く触手の感触は吐き気がするほどリアルで、表面の細かな凹凸さえも感じ取れるほど。 というより、むしろ普段より感覚が鋭敏にされている気配すらある。 そうこうしている内に腕や胴にも触手が纏わりつき、成す術もないまま空中に持ち上げられてしまう。 日和の方に視線を向ければ、空中に持ち上げられてこそいないものの、ほぼ彼女も同様の状態だった。 だが、触手への嫌悪感よりも腹を襲う激痛に身をよじり、顔には大量の脂汗を浮かべている。 あれではそもそも触手拘束されていることに気付いているかどうかすら怪しかった。 その日和の腹がクリスの見ている前で徐々に膨らんでいく。 通常の妊婦が1年近くかけて行う変化を、わずか1分足らずで見せつけられる。 時折その腹の一部がボコボコと蠢くたびに、日和は痛々しい呻き声は上げた。 そのまま破裂してしまうのではと思うほど膨らみ続けた腹が成長を止める。 そして産婦人科の内診台に括りつけられたように広げられた足の中心から、大量の液体が溢れ出した。 それが破水と呼ばれる現象であることをクリスは知っている。 その現象が何の前兆であるのかも。 「や、……なにか出てく。 やだ、やだぁ……こわれ、ちゃ」 産みの苦しみを紛らわすように、唯一拘束されていない尾がめちゃくちゃに振り回される。 「ひ、日和……」 魅入られたように視線を外せなくなったクリスの見る前で、出産というこの世で最も神聖な儀式が執り行われた。 産み落とされた赤ん坊は見た目は人間の赤子と相違ない。 状況を考えれば父親であることに間違いない化け狸や、そして母親である日和ですら持っている尾さえない完全な人間の姿。 ただ、人間と同じなのはせいぜい見た目くらいのものだった。 臍の緒すらそのままに、赤子は急速に成長していく。 クリスが感じる気配は、日和にも似た人と妖の混ざり合ったもの。 ただそこから感じる力の量は、両親が持っていたものを足し合わせても遠く及ばないほど強大なものだ。 愕然とするクリスが見守る中成長を続けていた赤子、今では少女と呼ぶべき存在が目を開いた。 母親譲りの黒い瞳は、けれど母親のそれが持っていた輝きを徹底的に削ぎ落としたかのような深淵の色。 同じく吸い込まれるような深みを持つ漆黒のおかっぱ頭の下の面立ちは、なるほど母親の幼い頃を彷彿とさせた。 と、外見年齢で言えば十を手が届くかどうかというあたりで、唐突に少女の成長が止まる。 「あれ? あれ? なんで止まっちゃうの?」 可憐に咲く花のような唇から、外見相応のまだ多少舌たらずな声が紡がれる。 そして自分の身体を確かめるように、薄い胸やまだ硬そうな臀部を中心にペタペタと手の平を当てていく。 「あー、もう、なんでなのよぉ」 不満げにそう呟き、瞑想するように瞳を閉じた少女。 目を閉じた直後こそ表情と呼べるものが抜け落ちたものの、見る見るうちにその顔に不満の色が戻ってくる。 「ったくもう、パパったら中途半端なとこで止めちゃうんだから。 まあ、あの状況じゃ仕方ないけど」 あろうことか自分で臍の緒を千切りながら、自分が生まれる前のことをまるで見たきたかのように言う。 いや、実際に今の数秒の間に見てきたのだろう。 過去に起きたことを知ることができる能力があると、クリスは以前聞いたことがあった。 「あ、あなた……」 声に混じる震えを抑えられない。 それでも気力を振り絞って声をかける。 その声を聞いて初めてクリスの存在に気付いたらしく、少女はクリスに視線を向けた。 「誰? ……あー、パパを殺した人ね」 言葉の内容の割りにどうでも良さそうな口調。 「あ、てことは、あたしの成長がこんなとこで止まっちゃったのはお姉さんのせいじゃない!」 父を殺したことより、自分の成長を止めたことの方が重要だと言わんばかりの言葉。 掴み所のない態度にクリスは当惑する。 もちろん父の仇と憎まれることを望んでいるわけではないのだが。 「あなた、本当に日和の子ども、なの?」 自分の目で彼女がその少女を産み落とした現場を見ても信じられない。 「そうよ。 あ、その顔は信じてない顔ね」 「だって、そう簡単に子どもなんてできるはずが……」 人間同士のできちゃった結婚とは違うのだ。 前例がないわけではないが、人と妖の間にある壁はそう低くはない。 元が人間だった類の妖であればまだしも、狸と人では本来そのあり方が違いすぎる。 「そりゃあ、そうよね。 だからその為に準備してたんじゃない。 ママの尾がただの飾りだとでも思ったの?」 その言葉に頭を金槌で殴られたような衝撃が走る。 日和の身体に同化した化け狸の一部。 (人を妖の側に近づけることで……) 「まあ、せっかく準備をしてたのに、当日までそれを忘れてたんだからパパも間抜けだけど」 「どうしようかなー、ママはこんなだし」 日和はもはや意識がないのか、ぐったりと触手に身を預けている。 「そうだ! ねえ、お姉さん、あたしのパパになってくれない?」 突然の、しかも予想もしていなかった問いにクリスは言葉を失った。 唖然とするクリスに構わず、少女は「そうよね、だいたい邪魔したのはお姉さんなんだから、責任は取ってもらわないと」 などと呟きながら歩いていく。 その先にあるのは肉床の上にこんもりと盛られた白い灰の山。 生きていた時に比べれば随分体積が減ってしまってはいるが、あの化け狸の名残だ。 「あーあ、こんなになっちゃって……」 横から窺えるその表情に哀しみの色はない。 むしろその声音には蔑むような雰囲気すらあった。 「あなたの父親なんでしょう?」 その様子にクリスは思わず問いかけてしまう。 妖の家族意識がどんなものかは知らないが、人間に当てはめてみるとあまりにもドライな反応だ。 「殺した張本人がそんなこと言うんだ? まあ、いいんじゃない? 子孫が残せたんなら、後はいつ死んでも」 そして「このへんかな?」 と呟きながら、灰の山に手を差し入れその一部を掬い上げる。 少女の小さな手の平に乗せられた灰が命を持ったように蠢き、見る見るうちに化け狸の手の平へと姿を変えた。 ここが少女の作った世界である以上、何が起こっても不思議はないとも言える。 それでも、その光景にクリスは息を飲んだ。 「残念、外れー」 少女は父親の身体の一部を無造作に投げ捨て、再び灰を掬う。 再び手の平の上で化け狸の身体の一部が姿を取り戻し、そしてすぐに打ち捨てられた。 「あー、これこれ」 何度かそれを繰り返した後、ようやく目当ての物を見つけたのか少女が嬉しそうな声を上げた。 その手にあるのは、力を失いだらりと垂れ下がった肉の棒。 紛れもなく日和の口や膣を蹂躙した化け狸の性器だった。 「うーん、別に種が欲しいわけじゃないから、これだけでいっか」 その黒ずんだ肉塊を手に、今度はクリスの方へと歩み寄ってくる少女。 その姿にクリスの背筋に寒気が走った。 逃げようにも身体は触手拘束されたままだ。 そもそも世界そのものが少女の思うままになっている以上、逃げ場などあるはずがない。 「こ、こないで……」 「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。 邪魔をしたのはちょっと許せないけど、まあママの身体を守ってくれたし、やさしくしてあげる。  さすがに受精直後であの炎に巻かれてたら危なかったしね」 少女の手が、クリスの大きく広げられた両足の中心に宛がわれる。 「あれ、もう濡れてる? もしかしてパパとママのエッチ見ながら興奮してたの?」 「そ、そんなことあるわけが……」 化け狸に犯され甘い声を上げる日和の姿が脳裏に蘇る。 彼女のことを可哀想だと思いながら、心のどこかでその熱い吐息に胸が高鳴った。 「ふふ、思い出したら、また濡れてきちゃった?」 少女の指が割れ目の内側へと入ってくる。 細いとはいえ、教えを守り自慰すらしたことがないクリスにはそれでも痛みが走った。 「それでもまだちょっと準備が足りないかな。 あたしがしてあげてもいいんだけど……」 しばしの思案。 「そうだ、お姉さんが新しいパパになるなら、ママとは夫婦ってことになるんだよね。 それならママにしてもらおう」 「な、なにを……」 少女の意を酌んだ触手によって、日和の身体が運ばれてくる。 全身に巻き付く触手によって取らされたのは、腰の高さを合わせお互いに秘唇を向かい合わせるような体勢。 「や、やめさせなさい! さもないと……」 その言葉を言い切ることもできない内に、下の口同士での淫猥なキスを強制される。 触れ合った日和のそこは、クリスのもの以上に熱くぬめっていた。 「ぁ……あ、きもち、いい……」 状況を認識するだけの余裕もなく、ただ与えられる感覚に身を任せた日和が腰を動かし始めた。 クチュクチュという卑猥な音がして、クリスの身体を甘い感覚が走り抜けていく。 「ひ、日和……目を覚ましなさい……ひぁ、動かな、あひぃ!」 2人の身体が同時に跳ねる。 日和が腰を動かしている内に、お互いの最も敏感な肉真珠が接触したのだ。 「あ、ここ……ここ、いいよぉ……」 味をしめた日和がそこを中心にさらに腰をくねらせる。 経験したことのない鮮烈な快感にクリスは翻弄されていた。 秘すべき場所を日和と擦り合わせているという背徳感すらもいつしか甘い物へと変わっていく。 「イク、イッちゃう……イッちゃうよぅ!」 日和の声が上擦っていく。 自分の中で高まってくるのが日和の言っている『イク』 という感覚なのかはわからないが、何かが近づいていることをクリスも感じていた。 そこに手が届こうとした瞬間、「はーい、そこまでー」 という少女の言葉とともに刺激が途絶えてしまう。 2人分の体液で濡れそぼった秘唇の上を空気が通りぬける冷やりとした感触に、薄れかけていた理性が多少戻ってきた。 けれどそれは一時の安息にすぎない。 「これだけ濡れれば、もういいよね」 少女が手にもった肉塊を擦り付けてくる。 その命の火が消え温くなった一物の感触に、クリスの肌が粟立った。 根元の方から差し込むように少女は手を動かすのだが、硬さを失ったペニスでは表面をぬるりぬるりと滑るだけで入っていかない。 「そ、そんなの入れないで、お願いだから」 おぞましい死体の一部を体内に挿入される恐怖に懇願してしまう。 それを恥ずかしいと思う余裕はもうなかった。 「うーん、うまく入っていかないなぁ。 仕方ないなぁ」 諦めて欲しかった。 けれど現実はクリスの期待には応えてはくれない。 少女の手の平の上で肉塊がビクンと跳ねたかと思うと、芋虫のようにウネウネとその身を捩らせる。 そして、その一端が再びクリスの割れ目に押し付けられた。 「い、いやぁ……入って」 狭隘な肉路をむりやり押し広げるようにして肉塊が進んでくる。 身を引き裂かれるような激痛と、身体を内側から汚される嫌悪感に気が遠くなっていく。 「寝ちゃダメだよ。 これからが本番なんだから」 いっそ気を失えれば楽になっただろう。 けれど少女が頭に触れると、薄れつつあった意識が強引に引き戻される。 「ぅあ……な、なによ、これぇ」 膣の1番奥、子宮口を突かれているのにまだ侵攻は止まらない。 「うふふ、これでお姉さんも立派なパパになれるのよ」 限界まで引き伸ばされ悲鳴を上げていた膣壁が肉塊に癒着していき、急速に痛みが薄れていく。 代わりに感じるのは、クリスの中に収まりきらなかったペニスの先端が風にくすぐられる感覚。 日和と淫核を擦り合わせていたときに似た快感が腰を駆け抜けていった。 「あ、大きくなってきた」 少女の手が添えられ、やさしい手付きで撫で上げられる。 それだけの刺激に、クリスは慄いたように腰を引いてしまう。 「や、やめて。 触らないでぇ」 次々と与えられる未知の感覚に、クリスの脳はもはや限界だった。 苦痛の類なら耐えられたかもしれないが、理性より先に本能の方が恭順してしまう快感には抗い切れなくなっていく。 「手だけでこれじゃ、あたしの中に入ったらどうなっちゃうんだろ」 身体の位置を少し下げられ、少女がその上を跨いでいく。 性毛もなく、1本の筋しか見えない少女の秘唇は、その未成熟な外見に反して濡れ光っていた。 「だめぇ……こわいのぉ……」 空気に撫でられるだけですら気が触れそうな愉悦が走り抜けていくというのに、そこに入れられてしまったら自分がどうなってしまうのかわからない。 「あたしの初めてをあげるんだから光栄に思ってよね」 恥も外聞もなく許しを乞うクリスに構わず、少女の腰がクリスの下腹部で隆々と立ち上がったペニスに向けて下りていく。 「それにしても、こんなに元気になるなんて予想以上かも」 お互いの一部が触れるまでにあと数センチというところで少女の腰が止まる。 怯えるクリスに艶然と微笑んで少女は言葉を続けた。 「そうだ、パパの頭をくっつけたらお喋りできるかしら」 「ひっ……そ、そんなのいやぁ……」 自分の身体にあの化け狸の頭を植え付けられるというおぞましい想像に、ついにクリスの青い瞳から涙の粒が零れ落ちた。 少女が身を乗り出すようにして、その涙を指で拭う。 「冗談よ。 古いパパになんか興味はないわ。 だってお姉さんが新しいパパになってくれるんでしょ?」 「な、なります。 なりますから」 とにかくその最悪な提案から逃れることだけが全てだった。 「ありがと、お姉さん……ううん、パパ。 それじゃ、いただきまーす」 あどけない外見にそぐわない蟲惑的な舌なめずり。 そして、少女の秘唇がクリスの昂ぶりに口付けをした。 「うあああ、だ、だめぇっ……こんなの、くるう、くるっちゃうぅ!」 先端を飲み込まれただけで、腰が溶けそうな愉悦が広がっていく。 グチュグチュと纏わりついてくる肉襞の感触。 猛り立った肉筒の中を何かが走り抜けていく。 「でる……でちゃう!」 外からは肉襞、内から擬似精液によって両方からペニスを擦り上げられ頭が真っ白になる。 「あはは、もう出してる。 どう、男の人の絶頂は?」 「あが……ぁ、くふぅ……」 「ああ、お姉さんは女の人の絶頂ってまだ知らないだっけ? せっかくだから比べてみる?」 耳から入ってくる少女の言葉。 けれどそれは快感の処理で手いっぱいの脳では理解するまでに至らない。 「ママもさっきの続きがしたいみたいだしね」 辛うじて脳が掬い取ったママという単語に、ほとんど反射動作だけで日和の方へ視線をやる。 その先には腕ほどありそうな触手で膣を掻き回されている日和の姿があった。 口の端からよだれを垂らしながら悶えるその姿が徐々に近づいてくる。 「ママの穴は使用中だから、尾が寂しいんだって。 ね、ママ?」 休むことなく腰を上下させ、クリスから最後の1滴まで精液を搾り取りながら少女が言う。 「あぁ……はい、いれたい、……いれたいです」 日和の願いを叶える為にクネクネと揺れていた尾に触手が巻き付き、クリスの排泄のための穴へと導いていった。 「そこ、使っていいよ、ママ。 初めてだから、きっとすごーく締め付けてくれるよ」 本来の用途とは逆の方向に異物が通過していく感触にクリスは目を見張った。 にもかかわらず、そこに悪寒や痛みのようなものは最初から存在しない。 「お姉さん、ううん、パパったらまた出してる。 そんなにあたしの気持ちいい? それともママの尾かしら?」 もうどちらがいいかなんてわからなくなっていた。 全身が快感の塊になってしまったかのような錯覚。 その中で日和と繋がることができたという倒錯的な悦びすら感じながら、クリスの心は快楽の海に沈んでいった。 洞窟の中に2人分の喘ぎ声が木霊していた。 「娘の前だっていうのに見せつけてくれちゃって。 まあパパとママが仲良しなのは悪くないけど」 そういっておかっぱ頭の少女はあくびをする。 その視線の先では日和とクリスが飽きることもなく身体を重ねて喘ぎ声を上げていた。 クリスのペニスは日和の膣に、そして日和の尾はクリスのアナルへと挿入されている。 2本の肉で連結された彼女達は、それですら足りないとばかりにお互いの身体を強く抱き締め腰を振っていた。 「あーあ、結局、1度固定化されちゃったら、もう姿は変わらないみたいだし」 クリスから吸い取った力のおかげで、少女の持つ力はさらに増していた。 だがその姿には全く変化がない。 もちろん少女にとって力を使えば姿を変えることなど造作もないことだろう。 それでも、そういったものを取り払った本来の姿というものは、それなりに少女にとって意味があるらしい。 「さてと、何だか飽きちゃったし、そろそろ外に行こうかな」 そう言って少女は立ち上がる。 「じゃあね、パパ、ママ。 末永くお幸せに」 その言葉を最後に、少女は振り返ることもなく歩み去っていく。 残された2人は少女が去ったことにも気が付かないまま、ただただお互いを求め合っていた。 生茂る木々の葉によって、月明かりすら地面にまでは届かない。 そんな夜の森に、場違いなこと甚だしい陽気な歌声が響いていた。 その声の主は、外見から推察すればせいぜい十もそこそこだろうおかっぱ頭の少女。 夜闇に溶け込むような黒のワンピースを身に着けているせいで、まるでそこから覗く手足と顔だけが宙に浮いているような錯覚すら感じさせる。 明かりも持っていないにもかかわらず、その足取りに不安の色はない。 そのことは別に不思議なことではなかった。 少女はむしろその闇に属する存在なのだから当然のことだ。 普通の人間が、昼間きちんと舗装された道を歩く際の気軽さで足を運ぶ。 その歩き方からは警戒心のようなものは一切窺えない。 足元に対しても、周囲の闇の向こう側に対してもだ。 彼女の父親にも、そんなところがあった。 すぐに気を緩める悪い癖。 彼の場合、野生動物として苛酷な自然環境の中で生きていた時代があるというのに、結局その癖は死ぬまで治らなかった。 死んだ後に治ったかどうかはわからないが、とにかくそれが原因で、1ヶ月ほど前に彼は命を失うことになったのだ。 それを考えれば、元より妖として生を受け、生まれつき超常の力を当たり前のものとして持っていた彼女の警戒心が薄いのも無理はないのかもしれない。 警戒などしていなくても、何かが起きてから対処すれば、どうとでもなると思っているのだろう。 ただし、それが成立するのは、あくまでも大抵の場合は、だ。 世の中には思い通りにいかないこともある。 力を持っていても、より強い力の前では容易く捩じ伏せられるという現実。 まだ名前すら持たない少女は、これから身を以ってそのことを知ることになる。 授業の開始を告げる鐘の音の代わりとでも言うべき、ヒュンという細い音が夜の森にかすかに響いた。 「なに?」 歩みを強制的に止められ、歌の代わりに少女の口から漏れたのはそんな言葉だった。 驚きではなく不機嫌さを声に滲ませながら、少女は周囲と自身の身体に視線をやる。 少女の周囲には、数え切れないほどの糸が張り巡らされていた。 普通の人間なら、明るい場所で目を凝らしても見ることができないほどの細い細い糸。 その糸が少女の首から下、全身に巻き付いて彼女の歩みを止めたのだ。 少女は何度か身体を動かそうとしたが、何重にも巻き付いた糸はその細さに反して切れることもなく、むしろより強く少女の身体を締め上げていく。 「無理に動こうとすれば、ただじゃ済まないわよ」 涼やかな声と共に、木の陰から修道服を着た少女、クリスが姿を現した。 冷めた視線で少女を射抜くクリスの両手、その全ての指からは周囲の木々に向けて何本もの糸が伸びている。 さすがにクリスの登場は予想外だったのか、少女は目を丸くして驚きを表現した。 「パパ、生きてたんだ」 「おかげさまでね。 あと少しで衰弱死するところだったけれど」 「それはパパがママとのエッチに夢中になってたからでしょ。 で、ママも来てるの?」 少女は周囲に視線をやるが、それに答えはなく、代わりとでも言うように巻き付いた糸が一層強く肌に食い込んでいく。 視線を戻せば、クリスの目は涼やかだった先ほどまでとは打って変わって憎憎しげに歪んでいた。 「そう、ママは間に合わなかったんだ。 まあ、パパよりだいぶ前から飼われてたし、あたしを産んだ分の消耗もあったしね」 よほど強く糸が締め上げているのか、少女はそこで1度息を詰まらせた。 「ところで、そろそろこれ解いてくれない? あたし、パパのこと好きだから酷いことしたくないんだ。  ほら、この服だってパパの真似してみたんだよ。 だから、今なら許してあげる」 人懐っこい笑顔を浮かべる少女に対し、クリスは言葉を返さない。 そして言葉の代わりに、糸に込める力をさらに大きくしていった。 「そう、なら仕方ない」 少女の放つ気配が禍禍しく膨らんでいく。 そこらの退魔師であれば、それだけで腰を抜かしそうなほどの力。 けれど、その力の大きさに反して、周囲には何も変化は起きなかった。 少女は幻術を発動させようとしたのだろうが、成功しなかったのだ。 「無駄よ。 あなたを待ち伏せするのに、何の対策もしてなかったと思う?」 日和の事を言われ激昂していたクリスの纏う雰囲気が、また落ち着いたものになる。 思った通りに事が運んでいるからだろう。 「ふーん、あの時はあんなに簡単にかかったのに……ああ、あの時簡単にかかったからこそ、対策も万全ってわけね。  それで、あたしをどうするの? この糸、その気になればあたしの身体を切ることぐらいできるんでしょ?」 思惑が外れたはずなのに、ただのはったりか、それともまだ何か策があるのか、少女の様子に焦りはない。 「なのに、こうやって動きを封じただけでそれ以上のことはしない。 何をしたら解いてくれるのかしら?」 「あなたが死ぬまで、その糸を解くつもりはないわ」 今のクリスの瞳に、日和の前で見せていたような穏やかな光はない。 澄み渡る碧眼は、そのまま氷を連想させるように冷え切っていた。 「ふーん、てことはすぐに切り刻まなかったのは簡単には殺さないってこと? あー、怖い怖い。 パパって神様ってのに仕えてるんでしょ? それじゃまるで悪魔みたいだよ」 「昔のことよ。 今の私に、その資格はないから」 「資格? ああ、神様って処女が好きなんだっけ。  確かにママの尾を入れられて喜んでるような人には、さすがの神様ってのも愛想を尽かすかもね」 あからさまに挑発するような物言いに、クリスの顔にわずかに憤りの色が浮かんだ。 威嚇のつもりだろう、その指が小さく動き、それに合わせて少女に絡みついた糸がさらにきつく食い込んでいく。 それに対する少女の行動はクリスの予想を裏切るものだった。 少女は締め上げてくる糸に対し、力任せに身体を動かそうとする。 それはクリスからしてみれば自殺行為としか思えない行動だったのだろう。 言ってみれば、刃物を構えていたところに、相手が突進してきて自分から刺されに来たようなものだ。 クリスの指には、糸が少女の皮膚を裂き肉に潜り込んでいく感触が伝わっているはず。 けれどそこまで行ってしまえば、クリス自身にももう止められなかった。 切断力に関しては研ぎ澄まされた刃物すら凌ぐクリスの糸は、骨すらも一瞬で切断し少女のバラバラ死体を作り上げる。 そのはずだった。 「なっ!?」 クリスの表情と声に驚愕が浮かぶ。 全身を寸断されたはずの少女が、何事もなかったかのようにその場に立っていた。 変わったことといえば少女の着ていた黒いワンピースが、まるで持ち主の身代わりにでもなったかのように細かな布片となって周囲に散らばっていることくらいだ。 「あー、痛かった。 うん、これが痛いって感じなんだ。 新鮮は新鮮だけど、2度はごめんかな」 生まれたままの姿になった少女は、全身を切断されたはずの感想を軽い調子で語る。 「くっ……」 焦りをその顔に浮かべながら、クリスの指が忙しなく動き、再び全方向から少女に向けて糸が殺到する。 「だから、無駄なのに」 対して少女は、微笑みすら浮かべてその糸を受けた。 今度は頭部にまで糸が巻き付き、少女の身体の中へと潜り込んでいく。 「ほら、無駄だった」 「切られた場所を、そのまま再生させるなんて……。 化け物め」 吐き捨てるようなクリスの言葉。 どうやら2度目の攻撃は、少女を殺すためというより糸が効かない理由を探るためのものだったらしい。 糸が通過して切られた部分を、糸の動きを追いかけるように即座に接着させていく。 「切れ味がいいから、くっつけるのはそんなに大変じゃないしね」 事も無げに少女は言う。 「それなら……」 少女の周囲で最初に聞いた風を切るような音が何重にも響く。 クリスが糸を回収している音だ。 はっきり言えばこのクリスの諦めの早さは、今回に限ればマイナスだっただろう。 いかに人外の存在とはいえ、全身を切り刻まれての再生はそれほど容易なことではない。 2人の間にまだかなり距離がある以上、接近されるなり逃げられるまでに何回も繰り返せばそれで勝てていたかもしれなかった。 少女の方も、そうされないためにことさら再生が簡単なことのように言って、糸による攻撃が無意味だと思わせた可能性が高い。 結局のところ、この1月足らずで覚えた付け焼刃な力を信頼しきれなかったのが敗因いうことだ。 それはまあ仕方がないことかもしれないが。 こと、この部分のやりとりに関しては少女の方が1枚上手だったと言っていい。 この部分では。 周囲に張り巡らされていた糸がなくなり、少女はクリスに向けて跳躍する。 普通に考えれば効かないとわかった糸を、少なくともその戦闘の中で回収する必要はない。 回収するより捨て去った方が、逃げるにしても別の攻撃手段を用意するにしても簡単なはずだ。 にもかかわらず、クリスはわずかとはいえない程の隙を作ってまで回収しようとした。 この戦闘の開始時点では必殺だと思っていた糸が、その実、全く効かなかったが故の混乱からくる致命的なミス。 少女はそう判断したのだろうか。 放たれた矢の如き速度で空中を滑る少女。 しかし、その速度がある一点で唐突に零になった。 「っ!?」 蜘蛛の巣に捕まった蝶のように空中で磔になった少女が、目の動きだけで周囲を探る。 だが少女の周囲にさっきまでのように糸はない。 「わたしの糸は見えないよ。 だって、そういう風に作ったから」 自分に向けられたまだあどけなさの残る声に、少女が声のした方に視線を向ける。 その先、クリスがいるのとは別の方向に巫女装束の少女、日和が姿を現していた。 日和の広げられた指には、クリスのように糸は巻き付いていない。 けれど、彼女がその指を動かすと、それに合わせて少女の姿勢が強制的に変えられていった。 それは紛れもなく日和の指と少女の身体が、目には見えないが糸によって繋がっているという証明。 そしてその見えない糸に捕らえられた少女が無理矢理取らされたのは、地面に背を向け、両手両足を天に向かって伸ばした状態でまとめられた体勢だった。 さながら猟師に捕まった狸のような屈辱的な状態。 「こんなもの……!」 少女は初めて焦りの色を浮かべて空中でもがいた。 けれど、その程度で彼女の身体が自由を得ることはない。 日和とクリスの使う糸。 糸という点では同じだが、それぞれの性質はかなり異なるものだった。 日和のそれは、相手の動きを封じることに重点を置いている。 蜘蛛が巣を張る時の糸で言えば、クリスのものは縦糸、日和のものは横糸と言っても良くクリスの糸のように縛り上げて動きを封じるのではなく、粘着性をもって対象を拘束する。 欠点は不可視性などのいくつもの特性を持つが故に、それほど大量に作り出せないということ。 このあたりは1本ごとの性質は切断という単純なものにして、量を作れるようにしたクリスのものと対照的だった。 「クリスちゃんのは元々拘束用じゃなかったから、あんな抜け道があったけど、わたしのはそうはいかないよ」 冷たく刺々しいクリスのものとは異なり、場違いとも言えるほど日和の纏う雰囲気は柔らかい。 「ママも生きてたんだ。 パパも人が悪いなぁ」 今度こそ力任せでは無理と悟ったのか、少女が全身の力を抜いた。 その表情にはすでに焦りの色はなく、余裕めいた笑みが浮かんでいる。 「ママ、かぁ。 本当にあなた、わたしの子どもなんだ。  こうやってちゃんとお話しするのは初めてだよね。 何だか変な感じ」 「あたしを産んでくれた時は、ママはお話するどころじゃなかったしね。  それで、ママはあたしをどうするの?」 あの洞窟での出来事を改めて思い出したのか、日和の頬がうっすらと染まる。 「わたしは……仕返しとかあんまり好きじゃないんだけど、叱ってあげるのもお母さんの仕事だと思うし、それに、お……」 「日和、さっさとやりなさい!」 恥ずかしさを紛らわそうとして、口を滑らせかけた日和をクリスが制した。 「あ、と、とにかく少しだけ痛いだろうけど我慢してね」 日和のその言葉の直後、宙吊りになっていた少女の身体が雷に直撃されたかのビクンと痙攣した。 「な、なに……?」 いきなりその身を襲った衝撃によって、ブランコのように前後左右に揺れながら少女が呻く。 「日和の糸は、力を直接相手に流せるようになっているのよ。 私の糸で切られるのとは、また違った痛みだったでしょう?」 クリスの言葉通り、日和の糸は不可視性の他に、糸を通して相手へと力を流し込むことができるという特性があった。 「そう、わざわざ教えてくれてありがと、パパ。 それなら……!」 今度は逆に、少女の身体から日和の糸に力が流れ込んでいく。 その力の量は手加減というものが一切感じられないほどのものだった。 とはいえ、別に少女としても、それで日和を倒せるとまでは思っていないだろう。 それでも、負荷に耐えきれず糸が切れるか、日和が自分の身を守るために糸を手放すかすれば自由になる。 そんな思惑のはずだ。 クリスがわざわざ日和の糸の性質を教えた理由を深く考えることもなく、即座に行動にでる。 日和の糸は広範囲には広げることができない。 だからクリスの周辺にだけ張られた糸に飛び込ませるために、わざと彼女が糸の回収をして隙を見せたときもそうだった。 「本当にわかりやすいわね、あなた。  猪突猛進もいいところだわ」 少女の短絡的な行動に対する嘲りを乗せてクリスが言う。 果たして、少女は自由を取り戻すことはできなかった。 糸は変わらず少女を宙吊りにしたままで、日和の様子にも変化はない。 訝しむような少女の視線に、日和は両の手の平をかざして見せた。 「見えないけど、指の先に力を蓄えたり逆流しないように流れを整えてる場所があるの。 だからね……」 だから、どうなるのか。 天に唾を吐いた者の末路。 少女がそれに思い至るのと、実際に体験するのはほぼ同時だったはずだ。 生まれて初めて上げただろう少女の悲鳴が、静かな夜の空気を切り裂いた。 あまりの衝撃に意識を失い、力なく揺れる少女の身体をクリスが固定する。 「日和、気付け程度にもう1度やりなさい」 「え、でも……」 少女をそんな状態に追いやった日和の表情は、とても晴れやかとはいえないものだった。 むしろ少女が気を失っていて見られることがないせいか、沈んだ表情を隠そうともしていない。 「……あの、わたし、戻ってていいかな?」 「日和?」 わずかな沈黙の後に、日和が口にした言葉を聞いて、クリスが訝しむように眉を寄せる。 「なんだか、ちょっと複雑な気分なの。  実感はないけど、その子はやっぱりわたしの子どもだし、何年か前の自分の写真見てるみたいに顔とかそっくりだからやりにくくって」 そのクリスの視線から逃げるように、日和の視線がわずかに下げられた。 それが向けられたのは、クリスの腰のあたりにあるものだ。 そこではロングワンピースの裾がちょうど腰のあたりまでたくし上げられていた。 少女の腰を掴むクリスの両手の代わりに、その裾を押さえているのはすでに限界まで勃起している男性器。 「それにクリスちゃん、これからするんでしょ? わたし、クリスちゃんが他の人としてるとこ、あんまり見たくないから」 申し訳なさそうに言葉を並べる日和に、クリスは小さく溜め息を吐いた。 「わかったわ。 ならこの子の目を覚まさせたら帰ってなさい。 あとは私がやっておくから」 「ごめんね……」 それはクリスに向けてものなのか、それとも少女に向けてのものなのか。 先ほどのクリスの指示通り日和が加減した力を流し込んだらしく、少女の身体が小さく震え、その口から目覚めを示すかすかな吐息が漏れた。 「……ごめんね」 歳後にもう1度謝って、日和は闇の向こうへと姿を消した。 「……ぅ……ぁ、あ?」 かすかな呻き声に、日和が消えた闇の先に向けられていたクリスの視線が、少女の方へと向けられた。 その視線が直前まで持っていたどこか寂しげな雰囲気は一瞬で拭い去られ、今では嗜虐的な光を帯びたものへと変わっている。 「あの時は私に気絶することも許さなかったくせに、自分は随分簡単に気絶してしまうのね」 クリスの言葉に、辛うじて意識を取り戻したものの、力なく宙をさまよっていた少女の視線がクリスに向けられた。 そして少女は、その視線だけで刺し殺そうとしているかのような鋭さで、クリスを睨み付ける。 「許さない。 パパもママも絶対許さないから……」 音が聞こえるほど強く奥歯を擦り合わせながら少女が言う。 その言葉と視線を正面から受けとめて、クリスは酷薄な笑みを浮かべた。 「良かった。 泣きながら許しを乞われたらどうしようかと思っていたわ」 「誰がそんなこと……、っ!?」 そこで少女は、自分の下半身の側にいるクリスの股間にあるものに気がついた。 そして、新しい玩具を見つけた子どものような笑みを浮かべる。 「それ、取ってなかったんだ。 そんなに男の人の快感が気に入った? で、それであたしを犯そうってわけね」 少なくとも表面上は余裕を取り戻し、挑発するように少女が言う。 少女の矮躯と比較すれば、肉の凶器とでも言うべきそれに怯んだ様子は一切ない。 「そうね。 私にこれを付けたこと、しっかりと後悔させてあげる」 クリスはその先端を少女の身体に接触させた。 予想していなかった場所に牡の猛りを感じたせいだろう、少女の顔に一瞬だけ動揺が浮かぶ。 すぐに拭い去られたその動揺を、けれどクリスは見逃さなかった。 「前はあの時に使わせてもらったから、今日はこっちを使わせてもらうわね」 クリスがその男性器を突き付けたのは、人間ならば排泄のために存在する肉穴だ。 妖として生を受けた少女は、生まれながらにして人間のような食事や排泄などとは縁がない。 少女にとっては、人間の姿を借りている都合上、形だけ存在している場所だった。 「後ろの穴でなんてパパってば変態さんだね」 「そんな言葉で私が止めると思う?」 「別に。 したいならさっさとすればいいじゃない。 あたしはぜった……」 力強く押し出されたクリスの腰の動きに、少女の言葉が遮られた。 潤滑油代わりの液体を纏った肉棒が、少女アナルへと一気に飲み込まれていく。 今まで意識することもなかった場所に生まれた初めての感覚を堪えるように、少女はきつく唇を噛み締めていた。 そんな少女を恍惚とした表情で見下ろしながら、クリスは根元までペニスを埋没させて腰の動きを止める。 「どう? ローションがあるから簡単に入ったでしょう? ふふ、ぎゅうぎゅう締め付けてきて、これだけで出してしまいそう」 「ふん、そんなものを使ってくれるんだ。 案外優し……!?」 少女の身体がピクリと震えた。 その少女の小さな反応に、クリスは満足げな笑みを浮かべる。 「効いてきたようね」 「な、何よ、これ?」 アナルを太いもので無理矢理押し広げられる初めての感覚。 そこへさらに追い討ちかけるように生まれた奇妙な感覚に戸惑ったように、少女は宙吊りの身体を捩った。 「このローションには聖水が混ぜてあるの。  割合としては大した量ではないけれど、こうして粘膜に直接擦り込むと熱くなってピリピリしてくるでしょう?」 クリスの言葉通りの反応が体内で起こっているのだろう、少女は太股を擦り合わせるようにもぞもぞと身体を揺すり始める。 「そして、そこをこうやって擦られると……」 「くぁぁぁぁぁぁぁっ!」 そのまま抜けそうになるほど勢いよくクリスが腰を引くと、少女の口から悲鳴とも喘ぎともつかない叫びが上がった。 聖水入りのローションを粘膜に擦り込まれているという点ではクリスの側も同じなのか、彼女は端正な顔を性感で蕩けさせながら腰をブルブルと震わせる。 その振動すらも少女にとっては堪え難い刺激なのだろう。 クリスがそこからさらに腰を前後に往復させはじめると、少女はもう情けない声を止められなくなったようだ。 「うあ……くぅ……あ、ああ……ぁ?」 不意にクリスが腰の動きを止める。 「どう? あなたが頼むなら続きをしてあげるけど?」 クリスの意地の悪い提案に、少女の瞳がわずかに揺れる。 「だ、誰が……こんなので……」 それでもまだプライドの方が勝ったのだろう。 少女の答えは拒絶の意思を示すものだった。 「そう、こっちはこんなに素直なのにね」 「ひぅ!」 突然、蜜を溢れさせていた秘唇に指を置かれ、少女が高い声を上げる。 そしてそんな声を漏らしてしまったことを恥じるように慌てて唇を噛み締めた。 クリスの指がニチャニチャと少女の秘部をかきまわす。 「こんなに濡らして。 こっちが寂しいんでしょう? いいものをあげるわ」 クリスがそう言って服から取り出したのは、今も少女の腸内に収まっている肉棒より長さも太さも2回りほど小振りのガラスの棒だった。 十分過ぎるほど濡れていた少女の膣は、それほど強く押さなくても容易くガラス棒を飲み込んでいく。 「こんなので、あたしが……」 大きさもそれほどではなく、表面も滑らかで刺激の少ないおかげか、少女の側にもまだ余裕があった。 実際、今も肛門に入れっぱなしになっているクリスのものに比べれば、ガラスの棒による刺激など大したものではないはずだ。 それよりも少女としてはローションを擦り込まれた腸粘膜の方が悩みの種なのだろう。 刺激を求めて腰をくねらそうとするのだが、両手両足をまとめて拘束され、しかも腰をクリスの手で掴まれているせいで望むだけの刺激を得られない。 とはいえ、クリスに懇願して動いてもらうのは少女のプライドが許さないのだ。 「心配しなくても、この程度で済ませたりしないわ」 ガラスの棒を奥まで押し込み、クリスが指を抜いた。 そしてその指先を見せつけるように少女の顔の前にかざす。 「糸……?」 クリスの人差し指の先端から1本の糸が伸びていた。 その糸の先は少女の膣内だ。 「その糸でこれを前後させようってこと? そんなことされたって……」 「外れよ。 あれはただの棒ではなくて、中が空洞になっているの。 今は栓がしてあるけれど、中に何が入っているかわかる?」 それまで以上に嗜虐的な光を瞳に浮かべながらクリスが問いかける。 あのガラス棒、いやガラス容器は間違いなく透明だった。 つまり中に入っていたものも無色透明ということだ。 「ふふ、想像がついたみたいね。 お尻の穴がキュッて締まったわよ。 本当に下半身は素直なのね」 少女の瞳が、屈辱的なおねだりを強制された時とは別の理由で揺れた。 そこに浮かんでいるのは紛れもない恐怖。 少女のその反応を満足げに見下ろしながら、クリスは少女の目の前に突き付けた指を動かした。 「あなたの想像が正解かどうか、自分の身体で確かめてみなさい」 少女の膣内で、ガラス容器に巻き付いていた糸が切断という己に与えられた仕事を果たす。 切断面が滑らかすぎるせいで、すぐに中身が溢れ出すことはなかった。 「や、やめ……」 けれど皮肉にも恐怖のあまり少女が身を捩ったことで、2つに分割されたガラスにそれぞれ別向きの力が加わり切断面をずらしていく。 「がああああっ!」 純粋な苦痛のみに彩られた絶叫が少女の口から迸った。 ガラス容器に詰まっていたのは、少女も予想していただろう聖水だ。 しかもローションによって薄められたものではない。 膣粘膜を焼かれ、蝕まれ、けれど少女の桁外れの再生能力がすぐさまそれを癒していった。 だが2分割されたガラス容器の破片の内、膣口に近い側のものは痛みで収縮した膣によってきつく食い締められ、それがこれもまた皮肉なことに栓の役割を果たしてしまう。 逃げ場を失った聖水は、再生を果たしたばかりの粘膜までもすぐさま焼いていく。 いつまでも終わらない苦痛のサイクルに、少女じみた咆哮を上げ続けた。 「ぎあああっ! ぐ、ぎぃぃぃっ! くあああ!?」 その叫びの中に、一瞬だけ甘いものが混じった。 クリスが再び腰を突き込んだのだ。 熟成されていた腸粘膜を擦り上げられた一瞬だけ、少女の中で苦痛を快楽が上回る。 だがクリスはすぐに腰の動きを止めてしまう。 「苦痛と快楽、どちらがいいか選びなさい」 激流の中に放り出された状態で、目の前に投げられた1本のロープ。 少女の精神は迷うことなくそれに縋りついた。 「お、おねがい……うごいて……。  うごいてよぉっ! でないと、あたし……あたし、壊れ……」 止められない悲鳴の合間を縫うようにして、少女は哀願の一言を口にする。 少女の心が折れた瞬間だった。 クリスが腰の動きを再開させ、今度は中途半端なところで止めることなく少女の精神を高みへと押し上げていく。 そこまで確認したところで、私は中継役に使っていた蜘蛛から意識を切り離した。 「ただいま戻りました」 自分自身の視覚で、木々の隙間から姿を現した日和の姿を確認する。 「随分早かったのね」 私の言葉に日和がビクッと身を竦めた。 そしておずおずと口を開く。 「あ、あの、これは……」 「説明はしなくてもいいわ」 一部始終を見ていた以上、わざわざ聞くまでもない。 「見ていたんですか?」 「そりゃあね。 万が一ってこともあるし、一応私はあなた達の保護者なんだから。  にしても、私は別に戦闘のためだけにあなたを一緒に行かせたわけではなかったんだけど」 「でも……」 日和が珍しく反論しようとする。 まだ行動を共にするようになって1月ほどだけど、これは本当に珍しいことだった。 よほどあの場所にいたくなかったのだろう。 「別にあれに加われってことじゃなくてね。 どちらかというとクリスがやりすぎそうになったときに抑えてくれることを期待してたの」 今回の目的は、好き勝手やっていたあの少女に1度徹底的な敗北を教えることだった。 私がやっても良かったのだけど、1度負かした相手にやり込められる方が身にしみて理解できるだろうということと、クリスはあの少女にやられたことをかなり根に持っていたから、その辺のガス抜きも兼ねて相手をさせたのだ。 ただ、クリスは普段はそれなりに冷静なのだけど、頭に血が昇るとあの少女にも負けないほど猪突猛進になる傾向がある。 それであの少女を壊されてしまうと、私としてはあまり嬉しくない。 何せ一応は、あの馬鹿狸の娘なのだから。 だからこそ日和も一緒に行かせたのだが。 「あ、あのどんな罰でも受けますから、だから……」 つい昔のことに思いを巡らせかけて黙ってしまったのを、私が怒っているせいだと勘違いしたのか、日和がそんなことを言ってくる。 「罰って言ってもねぇ」 少女は思っていたより頑丈そうだから、今のクリスの力では肉体的には完全に壊してしまうことはないだろう。 心の方は……、下手に身体が頑丈なせいでかえって苦痛が増している気がするけれど、まあそちらも何とかなるだろう。 「まあ、クリスが私の頼んだことをやってくれてるのに、その間あなたが何もしないでいるのも示しがつかないしね。  なら勉強でもしていてもらおうかしら」 「勉強、ですか?」 「少しだけお仕置きも兼ねてね。 とりあえず着ているものを脱ぎなさい」 私の命令にわずかなためらいを見せたけれど、すぐに日和は言われた通り裸になった。 巫女装束をきちんと畳んで地面に置き、手で胸と股間を隠しながら潤んだ瞳をこちらに向ける。 その潤みの原因は不安が半分期待が半分といったところだろうか。 「はい、じゃあ手を上げて」 むりやりやってもいいが、自分で隠していた場所を曝け出させるというのもなかなか乙なものだ。 羞恥に身を震わせながら、それでも日和はおずおずと万歳をするように両手をあげる。 どうやらどんな罰でも受けると言った覚悟は軽いものではなかったらしい。 指先から生み出した糸を頭上の枝を介して日和の両手首に巻き付け、その身体を持ち上げる。 一方で別の糸で両足首を括って地面に向けて引っ張った状態で固定した。 「な、何をするんですか?」 上下から引っ張られ、空中で身体をピンと伸ばした状態で動けなくなった日和が尋ねてくる。 「あとは……あなたの場合、尾も押さえておかないとね」 あえて日和の質問には答えず、彼女尾を背中に張りつけるようにして胴にも糸を何周かさせる。 完全に身動きを封じられた日和の表情には不安の色が濃くなっていた。 お仕置きも兼ねて、という言葉で軽く脅しておいたせいもあるだろうか。 「こっちは、そうでもないんだけどね」 歩み寄って日和の下腹部に手を当てる。 手の平に感じるのはぬるぬるとした愛液の感触だ。 日和が小さな声を漏らし赤面する。 普段は閉じ合わさった大陰唇を掻き分け淫核に触れると、不自由な中でもその身を震わせるのが可愛らしい。 続いて膨らみかけた両胸の先端にも指を伸ばし、軽く捏ねてあげるとすぐにその蕾が凝り固まってきた。 「日和、この糸が見える?」 本人の愛液で濡れた指先を、彼女の目の前に突き付ける。 そこから出た糸は日和の敏感な3つの突起に繋がっていた。 「あ、そ、それは……」 指をクイッと動かしてやると、その度に日和は身悶えする。 このまま続けていれば、すぐにでも絶頂に追い込むことができるだろう。 だから私は指の動きを止めた。 「はぅ……え?」 目を閉じて与えられる快感に身を委ねていた日和が、物足りなげな呻き声を漏らしながら瞼を上げる。 その潤んだ瞳は続きをしてほしいと訴えかけてきているが、私はその期待に応えてやるつもりはなかった。 少なくとも私自身は。 「日和、私達が使う糸は、別に目の前の相手を捕らえたり攻撃するためだけにあるわけじゃないのよ」 言いながら、手の届く場所に張ってあった糸に、日和の急所に結びつけた3本の糸を接続する。 「小さくだけど振動しているのがわかる? この糸は今、この森全体に張り巡らされていて、その周囲の情報を振動として送ってきているの」 蜘蛛が巣に獲物がかかったことを、その獲物がもがくことで生まれる振動で知るように、私はその気になればこれだけでこの森全体で起こっていることのほとんどを把握できる。 それは小さな羽虫が羽ばたくことで生まれた空気の流れすら拾えるレベルでだ。 「だから、あなたもそれくらいできるように、どこでどんなことが起これば、どんな振動が来るかを覚えなさい」 「は、はい……」 熱に浮かされたようにぼうっとした瞳で、それでも日和は返事をする。 「まずはこの森中の蜘蛛の感覚を共有させてあげるから、そこから得た情報と、伝わってきた振動を対応させていくのよ。  振動の方もわかりやすいように増幅してあげるから」 言葉にした通りの処理を施すと、日和の眼球がめまぐるしく動き始める。 クリス達の周辺と、ある場所を除き、数え切れないほどの蜘蛛達の感覚を流し込まれて、それに引き摺られている反応だ。 「あ……感じます、ビリビリして……でも、こんなの……」 糸から伝わる振動も強くなり、それは確かな刺激となって彼女の身体の中を駆け巡っているらしい。 「気をやるととわからなくなるだろうから、振動の強さはぎりぎりそこまでいかない程度に抑えておいてあげるからね」 「そ、そんなぁ……」 早くも蕩けはじめていた日和の顔が強張った。 気をやる直前で長時間留め置かれることは、連続でイキ狂わされるより辛いことを知っているからだ。 なにせ、この前、私が直々に骨の髄まで教えてあげたから。 「お仕置きも兼ねてって言ったでしょう? じゃあ、頑張ってね」 「あ、あふぅ……まって、まってくだ、や、ああぁ」 「私は少し用事があってここを離れるから、クリスが戻ってきたら、最後までしてもらいなさい」 「は、や、だめぇ……こんなのわかんない……、気持ちよくて、でも……」 ちゃんと聞こえているのだろうか。 まあ日和の側が求めなくても、クリスが戻ってくれば彼女の方が自発的に何とかしてくれるだろう。 クリスも疲れているだろうけど、復讐心に駆られる姿を見せたことで日和を悲しませた罰ということにしておこう。 そう決めた。 そして私は日和に言った別の用事に向かうために、彼女に背を向け歩き出した。 クリス達のいる場所とは別に、日和の知覚できる範囲から外した場所。 そこに1人の男がいた。 人間の街に紛れ込めば、そのまま溶け込んでしまいそうなほど特徴のない中肉中背の男。 というより、こうして1人でいるところを目の前にしていても、気を抜けば見失ってしまいそうな錯覚に陥ってしまう。 それぐらい存在感のない男だった。 その顔からは感情の欠片すらも読み取れず、だからと言ってそれが異様だとも感じられない。 実際、彼が動いても空気の動きが生まれないところからして、肉体を持ってはいないのだろうと私は思っていた。 今回は向こうの方から存在を報せるように気配を表に出していたから早めに気付くことができたが、そうでなければよほど接近されるまでは気が付かなかっただろう。 もちろん背後までは、取られるつもりはないけれど。 「まさか、あんたが最初に来るとは思ってなかったわ」 私と彼は旧知の仲と言っても差し支えのない関係だった。 あの馬鹿狸と、他にも何人かで共に行動していた時期があったからだ。 ある日を境に別れたけれど、私の所にあいつから、面白いことがあるから来てみないかという連絡があったからには、他の面子にも連絡が行っているとは思っていた。 だから、新しくねぐらにしていると聞いていた洞窟で、あいつの死体と瀕死の状態のあの2人を発見した後、そこから離れる際に私達の場所を知らせる伝言を残しておいたのだ。 「来るならば、あの娘だと思っていた、というところか」 「まあ、可能性で言えばそれが1番高いとは思っていたわ」 あの娘、あの頃一緒にいた、そして私とはそれ以前から行動を共にしていた少女彼女はあの中の誰よりも好奇心旺盛だったから、あいつからの報せを聞けばすぐさま来るだろうとは思っていた。 もしかすると私より先にあの洞窟に来ていたのかもしれない。 日和達は知らないと言っていたが、彼女達が気を失っている間ということも考えられる。 ただ、それならあの2人をそのまま見過ごして立ち去ったというのが、少々腑に落ちない部分ではあった。 「それにしても、来るならもっと早く来ればいいのに。  あれからもう1月以上経っているじゃない」 「私の所に、あれの使いがきたのは、数日前だ。  君達と別れてから、大陸に渡っていたのでね。  さすがに海を越えるのには苦労したらしい」 「大陸ねぇ……さしずめ傷心旅行といったところかしら?」 「そう取ってもらっても構わんよ」 私の言葉に気を悪くした風もない。 「相変わらず、つまらない男ね」 「あれや、あの娘のようにはなろうとしてもなれんよ」 「まあ、そうでしょうね。  感情表現が豊かなあんたなんて、想像しただけで笑ってしまいそう」 すぐに感情を表に出すあの子や馬鹿狸をからかうのは楽しかった。 別れた事を後悔はしていないけど、それでもあの頃は全く退屈せずにいられたというのも間違いない。 「それで、この状況はいったいどういう事なのかな? それを教えるために、わざわざこんな場所まで呼んだのだろう?」 再会の挨拶もそこそこに、彼が本題を切り出した。 彼の言う通り、こちらとしてもそのつもりだったから、事情を話すことはやぶさかではない。 「と言っても、ここまで来てあの3人の気配を読めば、凡その想像は付くんじゃないかしら?」 「まあ、な。  あれの力が最も濃い娘が、それこそ彼が言っていた面白いことなのだろう。  残りの2人、人間と彼と君の気配が混ざり合った、随分と節操のない娘達は、彼から君が譲り受けたといったところか」 「概ねそんなところよ。  譲り受けたってのは少し違うけれどね。  私が行った時には、あの2人だけが残されていたの。  で、事情を聞こうにも今にも死にそうでそれどころじゃなかったから手っ取り早く眷属にしたってわけ」 人間の医者に見せても、話が聞けるまでにどれぐらいかかるかわからなかったし、そもそもそこまで回復するかも怪しい状態だった。 加えて、私が発見した時点でもう随分人間から外れてしまっていたし。 「おかげで、いきなり3人の子持ちよ。  まったく、あの馬鹿も作ったなら作ったで最後まで責任を持ってほしいわね」 そう言って肩を竦めてみせる。 「1人は正真正銘産まれたてだし、他の2人もこっちの世界では赤ん坊同然だから、色々教えてあげないといけないし」 それに、あの2人はしばらくは匿ってあげないと、人間だった頃の仲間に狙われるはずだ。 妖を狩る側の存在が、逆に妖の側になってしまったなど、彼らからしたら汚点以外の何物でもないだろうから。 まあ人間を超越した私達と戦うための力を得る段階で、力に魅せられて自ら人間である事を捨てる輩など珍しくはないのだけど。 「言葉のわりに、随分と楽しそうだな」 「そうかしら?」 「そもそも、事情を聞くだけなら1人だけも良かったと思うがね。  大方、意識を失ってもその2人の手が固く繋がれていたのを見て、ほだされたといった所だろう? そちらの趣味も相変わらずか」 「まあ、男だったらそのまま放っておいたでしょうね」 「何にしても面倒見のいいことだ。  それもまた、私には真似のできない部分ではある」 彼のこの言葉には、私は思わず噴き出してしまった。 彼が子守りをする姿なんて、それこそ趣味の悪い冗談としか思えない。 「さて、事情もわかったことだし、私はそろそろ失礼させてもらおうか。  あれの言った面白いこととやらはともかく、久しぶりに君と話せてなかなか楽しかったよ」 「あら、それは光栄ね」 しばらく会わない内にお世辞の言い方を覚えたというのは意外だった。 「別に世辞というわけではないよ。  今更だが、あの頃の私は、君の言動、特に彼やあの娘とのやりとりを見るのが、それなりには好きだったのでね」 こちらの心中を見透かしたように、彼は言う。 「それなら今度は私が皆に連絡を取ってみましょうか? あいつはもういないけれど」 別に本気で言ったわけではない。 あくまで冗談として、軽い調子で私がそう言うと、そこで初めて彼の顔に感情めいたものが浮かんだ。 それは憐れみ、なのだろうか。 「どうやら、本当に知らぬようだな」 「何をよ?」 「あの娘は死んだそうだ」 事も無げに放たれた彼の言葉に、私は一瞬何を言われたか理解できなかった。 ……死んだ? あの子が? 「そうなんだ。  確かにそれは知らなかったわ」 それでもこの男の前で動揺しているのを見せるのは気が進まなかったから、表面上は平静を装ってそう返す。 「仮にも君の眷属だろう? 私はそういったものを持たぬから詳しくは知らぬが、死んだことくらいわかるのではないのか?」 確かに、今この瞬間日和やクリスが命を落とせば、主たる私はたとえその場にいなくても、それを知ることができる。 けれど??、 「あの子が私の眷属だったのは、あの日までだから」 あの日、完全に繋がりを断ってしまった以上、私と彼女はもはや何の関係もなくなっている。 そして、死んだとなれば、これから先再びそれが繋がることもないのだろう。 「詳しい話は聞かれても答えられぬよ。  どうやら彼女も大陸に渡っていたらしく、それで私の所にも噂が届いただけなのでな」 「別に、聞きたいとも思わないわ」 これは私の本心からの言葉だった。 死んだというなら、それまでの事だ。 馬鹿狸のように置き土産を残していったならまた別だけれど。 「ならば今度こそ失礼するとしよう」 最後の最後に爆弾を残して、彼は最初からその場にいなかったように消え失せる。 そして1人残された私は、特に理由もなく顔を上に向けていた。 実際には幾重にも重なった木々の葉で見えないけれど、その向こう側に存在する星空に意識を飛ばしながら、 「……死んだ、ね」 自然と、そう呟いていた。 出典:きき リンク:かいかい?