まぶたの上からでも目を焼かれるような、強烈な光を顔に当てられて僕は目を覚ました。
僕は素っ裸でマットの硬いストレッチャーに乗せられ、医者の手元に陰を作らないよう、あらゆる角度から患部を照らす無影灯によって照らされている。
間違いない……ここは手術室だ。
そして、その手術を受ける患者は……僕だ。
体は鉛のように重く、ストレッチャーから起き上がることもできない。
なんとか光から逃れようと、力をふりしぼって首を横にしてみると、白衣を着た女の人がいた。
手術着も着ていないが、ひと目見ただけでなぜか、彼女がこれから僕を手術する女医さんだということがわかった。
切れ長の目と小さめの眼鏡のせいか、知的でちょっと冷たく、神秘的な印象を受ける美しい人だ。
やぶ医者ではなさそうな気がして、これから自分が何の手術を受けるかもわからないというのに、彼女を見て僕は少しだけほっとした。
へその上くらいまでゆったりと開いた襟元からは、豊かな胸の谷間と、白い肌だけが光る。
彼女白衣の下に何も着ていない。
これがここで手術するときの衣装なんだろうと、そのとき僕はなぜか納得した。
でも、この美しい女の人の前で、前も隠せずにいる自分は恥ずかしかった。
その恥ずかしさと、女医さんの白衣の下の裸体を想像して、僕は勃起した。
女医さんの目線が動き、それを確認すると、大きなピンセットを取り出し、僕のペニスをつまんだ。
そして、勃起の具合を確かめるように上下左右に動かす。
ステンレスの冷たい感触が、いろんな方向に動いて刺激的だ。
続いて女医さんは、箸を左手に持ち、ペニスをおなかに押し付けると、僕の陰嚢をすくい上げるように手の上に乗せた。
たゆん、たゆんとゆすって中身を確かめる。
それも気持ちがよく、声を上げたかったが、なぜか声は出せなかった。
触診を終わらせると、女医さんは髪をうしろに縛りながら「手術を始めます。」と、凛とした口調で言った。
緑の手術着を着た助手と思われる2人の少女がやって来て、僕の腰に布をかける。
中央には円い穴があいていて、股間の部分だけが見えるようになっている。
手術帽と手袋を着け終わった女医さんが、左手で僕の陰嚢の根元を掴んで、その穴の中央に乱暴に引っ張り出す。
施術しやすいようにと、助手のひとりが僕の足を軽く開く。
力が入らないので、なされるがままだ。
女医さんは陰嚢の根元を掴んだまま、右手を脇にいるもう一人の助手へ差し出す。
「ペンチ」女医の透き通った声が手術室に響くと、少女は手際よく銀色に光るペンチを手渡した。
グリップを確かめるように2、3回カチカチとペンチを鳴らすと、僕の股間にそれを当てる。
ペンチを取り出したときの、まさかという不安は的中した。
何をするのかはもはや明白だ。
僕の睾丸は女医さんに潰される。
「何で潰すの!? 先生やめてください、そこは悪くないです! しかも、麻酔もまだしてないのに……!!」そう言いたかったけど、さっきと同じく声はひとつも出ない。
体も動かない。
「右……左……? 右だな。」女医さんはどちらの睾丸から潰すべきか迷っていたが、右と決めると、ペンチを右側の睾丸にあてがい、ペンチで睾丸を潰すには不要なほどの力で、ペンチを力強く握り締めた。
「ブリュッ」という破裂音と、何かが押し潰される音が聞こえた気がした。
それと同時に、僕は睾丸から脊髄に、高圧電流を直接流されたような、ものすごく鋭い激痛に襲われた。
僕の睾丸は、ペンチの間でえびせんべいのように潰された。
ペンチの圧力から開放されると、脊髄を走る激痛は残されたまま、今度は睾丸がガスバーナーで燃やされたかのように熱くなるように感じた。
女医さんは離したペンチを、すぐに残されたもう1個の睾丸に当てた。
そして、まるで分厚い書類の束にホチキスでも打つかのように、何のためらいも見せずにペンチを握り締める。
その痛みは、先ほどの痛みを吹き飛ばすのではなく、積み重なるように感じられた。
いまだ電流が走るように鋭い痛みを感じていた脊髄に、今度は高圧電流が流された、太く鋭い杭を打ち込まれたようだ。
加えて、その根元となる股間を襲う業火のごとき苦痛も、はっきりと残ってその痛みを加速させる。
呼吸ができないほど痛くて、そのまま窒息死するかとも思った。
その一部始終を見守っていた冷たく光る6つの瞳が、引きつっているであろう僕の顔を一瞥して、施術の続きに入る。
「鋏。」女医さんの手に、小さめの鋏が手渡される。
ペンチと同様、シャキシャキ、と軽く鋏を動かすと、腫れ始めた陰嚢の下の部分をつまんで、ギューッと引っ張り、根元まで届くように、陰嚢の真ん中から縦に鋏を入れる。
「ジョキ!」と音を立てて、陰嚢は真っ二つに切り分けられた。
切り分けられた陰嚢はひとりでに左右の根元に開いていき、その中から、破裂してあちこちから肉片をはみ出させたものがこぼれ落ちる。
体と精管で繋がっていなければ、それが睾丸だったかもわからないだろう。
女医さんはその、破壊された睾丸をひとつつまんでギューッと引っ張り、ピーンと張った精管に鋏を入れて摘出する。
潰れた睾丸を襲う、燃え盛るような激痛は弾けるように掻き消えたが、切り口のあるであろう、もっと体に近い場所に、先ほどの熱さを集中させたかのような耐え難い痛みが新たに僕を襲う。
女医さんは切り離されたそれを目の近くへ運んでしばらく観察すると、助手の少女が差し出したステンレスの盆に置く。
同じようにして、残り1個の睾丸の残骸も切り離して盆に置くと、2人の助手の少女たちは、待ちかねていたかのようにすかさず、それを1個ずつつまみ上げて、サクランボを食べるときのように舌を使って口の中に滑り込ませて、モグモグと食べてしまった。
その様子には目もくれず、女医さんはいまだ勃起したままの、僕のペニスを指で包むように握り、しなやかな指遣いでしごく。
激痛に溶け込んで大きな波となったかのように、普段ペニスから受けるものとは違う、大きな快楽を感じる。
我慢できないほど痛い。
でも、我慢できないほど気持ちいい。
しかし、その快楽は絶頂に至る気配はなく、延々とさざ波のように続くように感じられた。
そう思うのはおそらく、睾丸が潰され、切り取られて今は2人の少女の胃の中に納められているため、射精が封じられたような気がしたせいではないだろうか。
それでも、普段の射精とは甲乙つけがたい快楽により、僕のペニスはさらに硬くなっていった。
「そう。」痛みと気持ちよさで意識を失いかけていた僕の耳に、女医さんの声が聞こえた。
いったい何のあいづちなのかと、あらためて女医さんを見ると、ちょうどそのとき、彼女は僕のペニスから目を離すことなく、筒状の小さな機械を少女から受け取っていた。
さぐり当てたスイッチを入れると、「チュイーン」と耳障りな音を立てて、機械の先端に取り付けられた直径4、5センチの銀色の円盤が回転する。
女医さんが一瞬、スイッチから手を離す。
円盤の回転が止まると、その縁に無数のギザギザがついていた。
小型の回転のこぎりだ! 先ほどの女医さんの言葉はあいづちではなく、硬く勃起させたペニスを切り落とすための「Saw(のこぎり)」のことだったのだ。
女医さんの指はペニスをしごくのをやめ、亀頭の端を軽くつまみ、中指、薬指、小指が、ペニスの脇にそえられる。
ふさぐこともできない僕の耳に、再び甲高い回転音が聞こえてくる。
その無数の刃が近寄る先は、ペニスの根元ではなく先端だった。
鈴口に、敏感な肉を削り取られる形容しがたい痛みが走ると、それは不躾に僕のペニスの中心へと、ゆっくりと潜りこんでゆく。
睾丸のときとは違い、継続する痛みに耐え切れず気が狂いそうだが、体の自由が利かない僕は、ただそれを受けるしかなかった。
ついに亀頭が真っ二つに切り開かれた。
さらにここから、数倍の時間をかけてペニスを両断されることを考えると、おそらく途中で発狂するだろう、と僕は思った。
しかし、そこで女医さんはスイッチから手を離し、刃を引き抜いた。
そして、機械を少女に手渡すと、右手と左手で2つに切り開かれた亀頭の左右をしっかりつまみ、一気に横に開いた。
「ミチミチミチッ!」と組織が引き千切られる感触とともに、ペニスは根元近くまで、真っ二つに引き裂かれた。
女医さんは裂けたペニスをしっかりと握るように持ち替えて、2、3回グッ、グッと左右に引っ張って、根元深くまで完全に裂いた。
そのたびに、身体を真っ二つに引き裂かれるような痛みが走る。
最後にゆっくりと左右に引っ張り、裂けた部分を確認すると、今度は2本になった僕のペニスを左手でまとめて握り締める。
「ソー。」再び女医さんの声が聞こえる。
のこぎりの回転音とともに、2本のペニスが上に引っ張り上げられる。
今度こそ、のこぎりの刃は根元に当てられた。
これで最後の痛みだ。
そう思うと、ペニスを失うというのに、なぜか早く切り落として欲しいと思っていた。
そして、その願いは回転音が止まったときに叶えられた。
ペニスは先端の感覚が失われ、根元の痛みだけが残った。
女医さんが手を開くと、2つの細長いソーセージのようなものが、少女たちのかかげたステンレスの盆の上に、鈍い音を立てて落ちた。
そしてまた、少女たちはそれをすぐさま拾い上げ、口に運んでいた。
その光景を最後に、僕の意識は途切れる。
次に目覚めたとき、これは夢の中の出来事だったと安堵するのか、それとも、夢であって欲しかったと嗚咽を漏らすのか……!?あのときのことで覚えているのは、そこまでだった。
再び意識を戻したときは、なぜか自分の部屋のベッドだった。
まだジンジンと疼くような激痛が走る股間には、股間を覆う大きな絆創膏が貼られていて、その間から尿瓶まで続く管が伸びていた。
そして、枕元にはトイレなど今後変化する生活についての方法が書かれたプリントと痛み止めやホルモン剤などの薬の束が置いてあった。
僕は、これからどうしようか? と迷ったが、恐怖感、恥ずかしさ、そして情けなさなどが入り混じり、結局何もしないことにした。
困ったことは、だいたいプリントに対処法も書いてあった。
男の大事な所を失ったことは、大変ショックだったが、そうなってみて生活してみると、次第に慣れてきた。
ホルモン剤なども、定期的に送られてきたので医者にかからなくても大丈夫だった。
そんなある日、道を歩いていると、後ろから声をかけられた。
「この前は」「どうもごちそうさま。」2人組の少女の声だ。
人違いだと思って振り返って、僕は足がすくんだ。
あのとき、僕のペニスと睾丸を食べた、助手の少女たちだったのだ。
「な……なんであんなことを……。」口ごもりながら、そう聞くのが精一杯だった。
「なんでって……好きだからかな?」「うん。おいしいよね。」少女たちは悪びれもせず、そう言って互いに微笑みあった。
「この人のはけっこう、おいしい方だったよね?」「うん。ちょっと小ぶりだったけど、クセがなくてね。」少女たちは僕をよそに、やれ何年物がいいとか、今週のベスト5はどうとか、身の毛のよだつ話をする。
彼女たちはあれを日常的にしているようだった。
「まあ、この町のいいとこはけっこう食べつくしちゃったから。」「あれがない人、実はけっこういるから気にしないでね。」そう言い残して、少女たちは足のすくんだままの僕を置いて、どこかに行ってしまった。
それから、少女たちを見たことはない。
そして僕は、今夜も夢を見るだろう。
あのときのすべてを、痛みすら克明に感じながら。
近頃、僕は思う。
実は夢を見ることを恐れる今の僕こそが夢を見ていて、本当は、美しい執刀医と少女たちにに永遠に去勢され続ける僕こそが、本当の僕なのではないかと……。