吉原に軒を連ねる多くの遊郭の中では、中堅格とされている見世の一つに榊屋がある。

比較的若い見世なのだが、今の女将の手腕によって急成長をとげて今ではそこそこ名が通っている。

 さて、榊屋も遊郭である以上、遊女たちの仕置き用の部屋がある。足抜けを図る遊女たちは、今も昔も後をたたないのだ。

成功するはずもないと、充分に知っているはずなのに、である。

 それでも、大抵の人間は一度失敗すればそれに懲りて二度と足抜けを試みたりはしない。

だから、普通であれば仕置き部屋の常連、などというものは存在しないはずなのだが……榊屋には、それが、いる。

名前は、武蔵。遊女としては標準よりやや上か、ぐらい
の容貌の持ち主なのだが、

ともかく気が強い。既に片手では数えられないほどの足抜けをくり返し、

その度に捕らえられてはきつい仕置きを受けているというのに、一向に懲りる気配を見せないのだ。

客とのトラブルも数多く、やはりその度に仕置きを受けるのだが態度が改まる気配がない。

今はまだそんなことはないが、この調子が続けば彼女が稼ぐ金よりも彼女のために強いられた出費の方が多くなるかもしれない。



 女将としても、頭を悩ませてはいるのだろうが、どういうわけか上得意の一人である

小次郎が武蔵に執心を見せているために思いきった対応が出来ないようだ。

いっそ、小次郎に身請けさせてしまえばいいのだろうが、武蔵の方では『絶対に、嫌っ』と公言してはばからないし、

小次郎の方でも『武蔵がその気になるまで気長に待つさ』という調子なので実現の可能性は今のところない。



 溜め息をつきつつ、今日もまた、武蔵の仕置きの準備を進める女将であった。

とはいえ、流石に遊女相手の仕置きのタネが尽き始めている。

大きく身体を傷つけるような責めをするわけにも行かないのだ。



「指切りにいぶし、ヒョウタンにくすぐり蝋燭もやったし……蚊柱は、時期的に無理だしねぇ。

責め、も、武蔵相手じゃあんまり効果はなさそうだし。ほんと、どうしたもんかねぇ……?」

 帳面を眺めつつ、深い溜め息を漏らすと女将は天井を見上げた。と、その時、脳裏にピンとひらめくものがあった。



「そうか……あれが、あったっけねぇ」

 にやりと口元を歪めると、女将は下男たちに準備を命じた。



「いいかげん、言い飽きたんだけどねぇ……武蔵、あんた、いいかげんに懲りたらどうだい? 

足抜けなんて、出来っこないってもう充分分かってるだろうに」

 呆れたように女将は両腕を屈強な男たちに掴まれて立つ武蔵へとそう言った。

ふんっと、顔を背ける武蔵の姿にはぁぁっと大きな溜め息をつく。



「まったく……済みませんねぇ、小次郎の若旦那。毎度毎度、どたばたしてしまいまして」



「なぁに、かまわないさ。で、今日はどんな仕置きを見せてもらえるのかな? 

まさか、釜茹でじゃないよなぁ。そんなことしたら、死んでしまうから」



 部屋の中央に据えられた鼎(かなえ)に視線を向け、片頬に小次郎が苦笑を浮かべる。

鼎の中には水が満たされていて、下には薪が積まれている。

鼎の深さはそれほどでもないから、中に人間を座らせるような形で使うつもりらしい。



「もちろん、大切な女郎を殺すようなまねはいたしませんとも。

いつもいつも痛めつけるだけでは芸がありませんからねぇ。たまには、踊りを披露してもらおうかと思いまして」

「踊り?」

 

怪訝そうに眉をしかめた小次郎ににっこりと笑いかけると、女将は下男たちにめくばせした。

無言のまま、下男たちが武蔵の身体を覆う衣服を剥ぎ取る。

武蔵が罵声をあげ、身をよじって抵抗するが、慣れている作業だから下男たちの動きに淀みはない。

さほどの時間をかけず、武蔵は全ての衣服を剥ぎ取られてしまった。

尚も毒付き、抵抗する武蔵の両腕を背中で交差させて縛りあげると、下男の一人が竹の棒を部屋の隅から持ってきた。

もう一人が武蔵の肩に手をかけてその場に座らせ、足を開いた状態で彼女の両足首が竹の棒に結び付けられる。

 下男たちが武蔵の身体を持ち上げ、鼎の中に移動させる。竹の棒の長さは鼎の直径と

ほぼ同じで、ぴったりとはまり込んでしまった。両腕も背中で縛られているから、

こういう体勢になると武蔵は自分の力では立ち上がることが出来ない。

ぱしゃっ、ぱしゃっと水音を立てて身体を揺するのがせいぜいだ。

立てられた膝が水面から顔を覗かせ、Mの字型になった両足の付け根の茂みが水中でゆらゆらと藻のように揺れている。



「な、何をしようってんだい!?」

「ふふん、すぐに分かるよ。少し、黙ってな」



 水面を揺らしながら叫ぶ武蔵のことを鼻で笑うと、女将は下男たちに合図をした。

床に置かれていた大きなタライを二人がかりで持ち上げ、傾けて中身を鼎の中にばしゃりと放り込む。

ひゃうっと奇妙な声を武蔵が上げた。



「な、何だい、これはっ。あっ、こらっ、動くんじゃないよっ」



 タライの中に入っていたのは、数十匹の鰻だ。もちろん、鰻には毒も牙もないが、

数が多いだけに水中の身体にぬるぬるとまとわりつく。無数の手に肌を撫でまわされているようなものだ。

僅かに頬を上気させ、武蔵が身をよじった。



「ふぅん、なるほど、ね」



 顎に手を当て、にやにやと笑いながら小次郎が呟く。

太股や腹、背中、更には水に漬かった乳房などに鰻の胴体が擦りつけられるたびに

武蔵が身をよじって喘ぐ。着痩せするたちなのか、意外なほど大きな乳房が

水の中でふるふると震え、そこに巻きつくように鰻がまとわりついていた。

それほど大きな動きは見せておらず、武蔵は僅かにを噛んで小さな喘ぎを漏らしている。



「それでは、もう少し派手に踊ってもらいましょうかねぇ」



 薄く笑いながら女将がそう言い、下男の一人が鼎の下に詰まれた薪に火を付けた。

よく乾燥させてあるらしく、ほとんど煙も立てずに薪が燃え上がる。

中に水が満たされているせいで、鼎は火で熱せられてもある程度以上の温度にはならない。中にいる武蔵が火傷をする心配はないわけだ。

 しばらくの間は、それでも武蔵は小さく喘ぎながら身体を震わせていただけだ。

しかし、水の温度が上がるにつれて、中に入れられた鰻たちの動きが激しくなる。冷たい水を好む鰻たちが、

暖かくなった水から逃れようといっせいに動き始めたのだ。



「ひゃうぅっ!? や、やめ……ひゃうんっ」



 びくんっ、と、身体を大きく震わせて武蔵が悲鳴を上げる。

鰻が好むのは、冷たい水と狭い穴。そして、水の中には丁度二つの穴があったのだ。

すなわち、武蔵の秘所と肛門である。いっせいに鰻たちが武蔵の股間に殺到し、

口の先でつんつんと茂みに覆われた秘所をつつく。

「だ、駄目っ、はいって、くるんじゃ……あううぅんっ」

 ぬるり、と、鰻の一匹がついに武蔵の体内への侵入に成功する。

ぬるぬるとした鰻の身体が、くねりながら秘所の奥深くまで潜り込んでくる感覚に、

武蔵は顔をのけぞらして甘いものの混じった悲鳴を上げた。

うねうねと胴体をくねらせ、武蔵の秘肉をたっぷりと刺激しながらなおも鰻が奥深くへと潜り込んでいく。



「あっ、はっ、ふわぁっ。ひゃっ!? ひゃひいいぃぃっ」



 刺激に潤み、花を綻ばせた武蔵の秘所へと二匹目の鰻が頭を潜り込ませた。

秘所から伝わってくる強烈な刺激に、目を剥いて武蔵が悲鳴を上げる。

びくんびくんと身体を震わせる彼女の身体中を、鰻たちがぬるぬるとした胴体でこすり、更に快感を高める。



「キヒイイィィッ、ヒッ、ヒャアアアアアアアァッ。あぐっ、ああぁっ、もう、無理っ、駄目ぇっ」



 二匹目が身体をくねらせながら狭い穴に潜り込み、一匹目と共に秘肉をこする。

めて味わう強烈な刺激に口を大きく開けて絶叫する武蔵。

二匹の鰻を飲み込んだ秘所へと、三匹目と四匹目の鰻が同時に頭を突っ込んだ。

流石にこれは簡単には受け入れきれず、秘所を引き裂かれそうな痛みを感じて武蔵が引きつった声を上げた。

だが、もちろん鰻にはそんな言葉は通用しない。強引に武蔵の秘所を押し開き、狭い通路へと身体を押し込む。



「キヒイイイイィッ、ヒギッ、ダメッ、動かないでっ、アヒイイイィッ。ヒアッ、ヒャッ、ヒャハアアアァッ!」



 四匹の鰻が、互いにもつれ合いながら武蔵の秘所をえぐる。

引き裂かれてしまいそうな痛みと共に強烈な快感が押し寄せ、惑乱した叫びを武蔵が上げた。

自由にならない身体をそれでも精一杯にくねらせ、ばしゃばしゃと激しく水音を立てながら身悶える。



「ハヒッ、ヒッ、ヒイイイイィッ。アッ、アッ、アアアア??ッ。動いてるっ、中でっ、動いてるぅっ」



「ふふん、ちゃんと色っぽい声も出せるじゃないか、武蔵」



 女将が嘲笑を浮かべるが、耳に入っていないのか、それとも単に答える余裕がないだけか、

ともかく武蔵は答えない。びくんびくんと身体を跳ねさせ、しきりに首を振って歓喜の声を上げている。

 四匹の鰻を飲み込んだ秘所の下、もう一つの穴である肛門へと、

比較的小さな鰻が頭を向けた。つんつんと頭の先で肛門を刺激され、引きつった悲鳴を武蔵が上げる。

男色ならばともかく、女を相手にするのにわざわざ肛門を犯そうという男は滅多に居ないから、

武蔵も今までにそこに男を受け入れた経験はない。反射的に鰻の侵入を防ごうと、肛門に力を込める。



「ふひゃっ!? ひゃうううううううぅっ!」



 肛門にぐっと力を込めた途端、鰻によって犯されていた秘所に強烈な刺激を感じて奇声を上げながら武蔵が顔をのけぞらせた。

肛門と秘所との筋肉は8の字を描いて繋がっているから、肛門を締めれば秘所も締まる。

四匹の鰻が絡み合いながらうねくっているのを思いっきり締めつけてしまったのだから、返ってくる刺激は強烈だった。



「うぐっ! うぐうううあああぁっ」



 前からの刺激に思わず緩んだ肛門へと、鰻が頭を潜り込ませる。

痛みと嫌悪感に悲鳴を上げる武蔵。だが、ぬるぬるとした鰻が身体をくねらせるたびに、

それ以外の感覚??快感が沸き上がってくる。めて味わう刺激に、半狂乱になって武蔵が頭を振り立てた。



「うあああぁっ、あひっ、あひいいいぃっ。死ぬ、死んじまうっ、うああああ??っ。ひゃっ、ひゃっ、ひゃひいいぃぃっ」



 甲高い絶叫と共に武蔵が顔をのけぞらせ、身体を硬直させる。

ぶるぶるっと、数度激しく痙攣すると彼女の身体から力が抜けた。

ぐったりとしている武蔵のことを、楽しそうな笑いを浮かべて女将と小次郎が眺めている。



「おやおや、まだ終わりじゃないんだよ? 武蔵」



「う……あ……。ひゃっ!? ふわっ、わっ、あひいいぃっ」



 あざけるような女将の言葉に、のろのろと顔を起こした武蔵が、びくんと身体を震わせた。

彼女の秘所と肛門ではまだ鰻たちが身体をくねらせつづけており、

中に入り込めなかった大多数の鰻たちはそのぬるぬるとした胴体で武蔵の全身をこすっている。

いったん登りつめたことで敏感になっていた全身に刺激を受け、否応もなく再び武蔵が身体をくねらせ始めた。



「うぁう、ふわっ、ふわわっ。ひゃうっ、ひゃ、ひ、ひゃううううぅんっ。ひや、ひゃめて、おかしく、なる……ふわわああぁっ」



 喘ぎ、身悶え、全身を真っ赤に紅潮させて武蔵が再び絶頂へと向かっていく。

全身の肌を撫でまわされ、秘所と肛門から強烈な刺激を受けているのだからたまらない。

甲高い絶叫を上げ、武蔵が頭をのけぞらせて白い首元をあらわにした。

ぶるぶるっと身体を痙攣させ、がっくりとうなだれるのだが、

すぐに次の波が襲ってきて半ば強制的に絶頂へと押し上げられてしまう。



「ヒイイイイイイィィッ! ぅ、うあ、あふっ、うぁん、あっ、ま、また、駄目、駄目ぇっ。ふわっ、うああああああ??っ!」



 全身に鰻を絡みつかせ、連続して気をやりながら武蔵が半狂乱になって泣き叫ぶ。

結い上げられた髪がほつれて顔に落ちかかり、凄絶なほど色っぽい。

楽しげな笑みを浮かべて見守る二人の前で、ひたすらに身体をくねらせ、叫び声を上げる武蔵。



「ふわっ、あひっ、ひああああぁっ。あ、ぐ、あ、ふわあああああぁっ」



 立てつづけの絶頂に、全身が性感帯のように敏感になっている。ぬる、ぬるっとその敏感になった肌の上を鰻たちが這いまわり、

武蔵の意識を快感のみで真っ白に塗り潰していった。



 ……どれくらいの時間がたっただろうか。

鼎の下で燃やされていた薪は既に取りのけられ、中に満たされたはゆっくりと

その温度を下げている。それでも、まだ鰻たちの動きは収まらないから、

武蔵へは連続して快感の波が襲いかかっていた。もっとも、何十回と絶頂を迎えさせられた武蔵の身体は、

そろそろ快感を苦痛に感じ始めている。強すぎ、長すぎる快感は、いつしか苦痛へと変わるものだ。



「あぐ、うあ、助け、て……ふわあぁっ。死ぬ、死んじゃう、あぐうううぅっ」



 弱々しく首を振り立て、哀願の声を漏らす武蔵。時折、びくんと身体が震え、

本人の意思とは関係なく喘ぎ声がからあふれる。下男が鼎の中に腕を突っ込み、

武蔵の秘所と肛門とを犯している鰻たちをまとめて掴むと無造作に引き抜いた。



「あひいいいいいぃぃっ」



 くねりながら引き抜かれていく鰻たちに、武蔵が悲鳴を上げた。

半ば白目を剥き、の端からよだれの糸を滴らしながら武蔵がひくひくと身体を痙攣させる。

だが、股間からの刺激が消えたのもほんの一瞬のこと。ほっと息をつく暇もなく、

ぱっくりと口を開けたままの二つの穴へと今までお預けを食わされていた、まだ元気な鰻たちがいっせいに侵入する。



「あがあああああっ、おぐっ、が、あががっ、ぐひいぃっ」



 びくんびくんと身体を跳ねさせ、武蔵が濁った悲鳴を上げる。

締め上げられ、元気をなくしかけていた鰻たちとは比較にならない激しい動きに、

脳裏でちかちかと光が弾け、目の前が真っ白になる。数度更に身体を痙攣させると、

ひいいいぃっと笛の鳴るような掠れた悲鳴を漏らし、武蔵は意識を失った。

ぐらり、と身体が揺れ、前のめりにつっぷす。鰻たちがばしゃばしゃと水を跳ね上げている水面に、武蔵の顔が沈んだ。



「ぷあっ、ぷはぁぁっ。ひあ!? あひっ、あひいいぃっ。ひっ、ひっ、ひあああああ??っ」



 水面に顔をつけたせいで窒息しそうになり、苦悶に身体を震わせた武蔵ががばっと顔を上げる。

一瞬、状況が理解できないような視線を宙に向けるが、次の瞬間には全身を襲う快感の波にのみ込まれ、

再び悲鳴じみた喘ぎを漏らし始めた。水滴を飛ばしながら頭を振り、身体をくねらせ、連続して絶頂を迎える。



「きひいいぃぃっ。ひっ、ひっ、ひっ、ひやああああぁっ。殺してっ、いっそ、殺してぇっ。あひっ、ひあっ、ひゃうううぅぅっ」



「殺すわけないだろう? お前にはもっと稼いでもらわないと困るんだからねぇ」



「ひぎっ、ひぎっ、ひぎいぃぃっ。ま、また、イク……アッ、アアアアア????ッ!」



 身体をくねらせ、悲鳴をあげる武蔵へと、薄く笑いながら女将が冷酷な言葉をかける。

もっとも、その言葉は武蔵の耳には届かなかったのか、きゅうっと背筋を反りかえらせて

武蔵が絶頂を告げる叫びを放った。全身の硬直が解けるより早く、新たな快感の波にのみ込まれ、

翻弄される武蔵の姿を眺めつつ、小次郎が楽しそうに笑う。



「ひゃうんっ、ひ、ひあああああ??っ。狂うっ、狂っちゃうっ、ああっ、許してっ、もう、許して……! あひいいいぃぃっ」



 普段の気の強い態度はどこへやら、泣き叫び、許しを乞う武蔵。

くくっと小さく笑うと、小次郎が軽く首を傾げながら身をくねらせつづける武蔵へと声をかけた。



「身請け話、受けてもいいんなら、助けてあげるけど?」



「いいっ、いいわっ、あひいいぃっ、ひっ、いいっ、いいのっ。ひやっ、あひゃああああぁっ」



 小次郎の言葉への答えとも、単に快感を告げるうわごとともつかない声を武蔵が上げ、

何十回目かの絶頂を迎える。白目を剥き、失神して前のめりに顔を水に付けるが、

すぐに息苦しさと全身を襲う強烈な刺激とで意識を取り戻し、再び顔を上げて悲鳴を上げながら身体をくねらせ始める。



女将。いったん、引き上げてもらえるかな? あれじゃ、まともな話は出来そうにないし」



 苦笑を浮かべ、小次郎が女将へと視線を向けてそう言う。同じく苦笑を返すと女将は肩をすくめた。



「そりゃ、若旦那の御命令とあればかまいませんがね。ほら、お前たち」



 女将の言葉を受け、下男たちが鼎の中から武蔵の身体を引っ張り上げる。

裸身にまとわりついていた鰻たちがぼたぼたと落ち、失神寸前の状態で武蔵の身体が砂の上に横たえられた。

拘束は解かれず、秘所と肛門とに入り込んだ鰻もそのままだ。力なく割り開かれた武蔵の股間で、

黒びかりする胴体を鰻たちはくねらせつづけている。ひっ、ひっ、ひっと切れ切れに悲鳴を上げる武蔵の頭の側に屈み込み、

小次郎は乱れた彼女の髪を掴んで自分の方へと顔を向けさせた。



「武蔵? さっきの、身請け話を受けるって言葉、嘘じゃないかい?」



「は、はい……何でもしますから、もう許して……お願い」



 瞳一杯に涙を溜め、武蔵が哀れっぽい声を上げる。

なおも股間でくねる鰻たちに快感を刺激され、びくっ、びくっと身体を震わせ続けながらの哀願に、

小次郎が満足そうな笑みを浮かべた。武蔵の股間から鰻を引き抜きつつ、彼女の耳元に口を近寄せてささやきかける。



「お願いします、私を身請けしてください、御主人様」

「え……?」



「そう言えたら、許してあげてもいいよ。まぁ、無理にとは言わないけど。言いたくないなら、またあそこに戻ってもらうだけの話だからね」



 ちらり、と、視線を鼎の方に向けて小次郎が意地の悪い笑みを浮かべる。

一瞬目を見開き、武蔵がを震わせた。鰻たちからの刺激が消え、普段の気丈な部分が復活してきたらしい。



「そ、そんなこと……」

「言えないかい? なら、しょうがないな。女将、悪いけど、もう一回戻してもらえるかな?」



 を震わせて拒絶の言葉を口にしようとする武蔵の姿に、あっさりとそう応じると小次郎が掴んでいた髪を離して立ち上がる。

同時に、下男たちの手が武蔵の身体にかかった。抱え上げられ、ひいっと武蔵が悲鳴を上げる。

鼎の中でうごめく鰻の群を目で見た途端、さっきまでの苦しみが脳裏によみがえり、一気に反抗の意思を失わせた。



「い、言いますっ、言いますからっ! お願い、あそこに戻すのは止めてぇっ」



 顔色を変え、悲痛な叫びを武蔵が上げる。ふぅん、と、気のない返事を返して小次郎が軽く片手を上げ、下男たちの動きを制した。



「じゃ、言ってもらおうか。ああ、そうそう、まんま同じ台詞を言うんじゃ芸がないから、適当に服従を誓う言葉、付け足してもらおうかな。

それで誠意が感じられたら、戻すのは勘弁して上げるよ。まぁ、俺に服従なんてしたくないって言うんなら、無理にとは言わないけどね」



「は、はい……。御、御主人様。い、卑しい女ではありますが、ど、どうか御慈悲を持って、私のことを身請けしてくださいませ」



 小次郎の言葉に顔を背け、声を震わせて武蔵がそう言う。その言葉に、小次郎が軽く首を傾げた。



「何だか、嫌々言ってるみたいだね。これじゃ、俺が脅迫してるみたいじゃないか」



「そ、そんなことは、ありませんっ。お願いですっ、あそこに戻すのだけは……! 許して、お願い……!」



 小次郎の言葉を、内心では脅迫そのものだと思いつつも武蔵が慌てて否定する。くすくすと笑いながら、小次郎は肩をすくめた。



「ふふふっ、ま、いいか。女将。話は、聞いてたよね。彼女の身請けの話、進めさせてもらってもいいかな?」



「はい、もちろんですとも、若旦那」



 小次郎の言葉に、嬉しそうに満面の笑みを浮かべて女将が頷く。

予定通り、これで厄介事が一つ片付いたわけだ。武蔵のような気の強い女には、

痛みを与えるよりもこういう絡め手で責める方が効果が高いのでは、と思ったのは間違いではなかったらしい。

 悔しそうにを噛みながら、武蔵は小次郎の横顔を眺めていた……。