人々が通学、通勤に足を運ぶ駅。
30階を越える巨大なオフィスビル、そして午後、買い物客でにぎわう地域に浸透するスーパーマーケット……どこにでもある、いつもの光景。
しかし、そこには現代の我々から見て、ひとつの大きな違和感があった。
どこにも“男性”の姿が見えないのだ。
一体、いつの頃からだろうか。
教科書からも消えたその歴史を知る者はもういない。
それでは、男はどこにいったのだろうか?……この時代、男性が人々の目に触れる場所は限られている。
そのひとつが、デパートの地下にある、生鮮食品売り場の一角にある食肉店だ。
店先には、牛肉、豚肉、鶏肉と並んで大きく“男肉”と書かれていた。
ショーウィンドウの脇には、両手を縛られて吊るされている5、6名の少年が並んでいる。
見た目は10歳から12歳ほどで、身につけているものといえば、口を塞ぐガムテープと胸元に張られたシールだけ。
つまり、少年たちは“商品”として、全裸で陳列されているのだ。
胸元のシールには、入荷先や日付などのデータに並び、「Y12 P13 B7 ¥38000」などと書かれている。
これが少年の主な商品スペックだ。
Yが年齢、Pがペニスの長さ、Bが睾丸の最大幅、そして¥が価格。
この少年なら12年ものでペニス13センチ、ボール7センチで38000円。
つまりは、そういうことだ。
それがわかればあとは簡単だ。
看板の“男肉”とは、男性器のことである。
肥育に時間がかかる上に、食肉にする部位の小さい、またとない高級食材としてそれは売られている。
ショーウィンドウに群がる女性たちは、ほとんどがしげしげと少年たちの性器を眺めて「おいしそうだけど……やっぱ高いわあ……。」とため息をついて去っていく庶民ばかり。
実際に注文するのは新鮮な男肉を求めてここまで足を運んでくる、一部のセレブお嬢様や奥様方くらいのものだ。
「いらっしゃいませ!」白衣に白帽の肉屋の女性が、客の目線に気づいて元気な声で挨拶する。
男性がいなくなったこの世界では、雇用制度も少し変わっていた。
スキルや適正があれば、どの世界でも14歳から雇用を許しており、この肉屋に勤めるサトミも、17歳にして3年のキャリアを持つフロアチーフだ。
「そちらの手前にあるお肉、いただけますか? あ、おちんちんは薄めにスライスしてください。」品のよい服装にブランド物の革製トートバッグを下げ、豊かなストレートヘアをたたえた18歳そこそこの少女店員に声をかける。
物静かに男肉を注文した少女は、先ほど説明したシールのついた少年の股間を指差す。
「ありがとうございます! 少々お待ちください!」店員は笑顔で軽く頭を下げると、ショーウィンドウの中に移動する。
「こちらでよろしいですね?」「ええ。それお願いしますね。」女性が少年のペニスをすくい上げるようにして客に見せて確認すると、その根元を細長いクリップのようなもので挟んだ。
少年の体が一瞬強張る。
次は自分の番だ……これまでここでつるされながら、出荷されていく少年を見てきたこの少年は、これより自分の体から、ある一部分を切り出されることを理解していた。
その行為は、自分の余計なものを取り去り、自分を育ててくれた美しい飼育員のような体になれる手段なのかもしれない……という希望を抱きつつも、どこか生命としての存在意義を失うという、とても恐ろしいことのような怖さもあった。
本当は、少年にもその答えはわかっていた。
少し前に虚勢された少年の嗚咽からも、その行為が、後者のものでしかないということを……。
しかし少年の脆弱な心は、その真実を真摯に受け止めて、覚悟を決めるほど強くはなかった。
痛くて怖くて悲しくて……これから起こる真実を認めたくない少年は、いつの間にか、大粒の涙をポロポロとこぼしていた。
そんなことは気にもかけず、肉屋の女性は小さく湾曲した、男肉専用の肉切り包丁を取り出した。
専用の研磨機で砥がれたその刃先は銀色に輝き、数百、数千もの少年の血を吸ったその刀身は、ザラザラとした鈍色をたたえ、少年の股間からほとばしる血液を欲しているようだった。
「それでは準備しますので、そちらでご覧になってお待ちください。」肉屋の少女はそう言うと、包丁を持っていない方の手で少年のペニスを無造作に掴み、そのままリズミカルにしごき始めた。
美しい少女の手でペニスをこすり上げられる甘美な快感に耐えられず、少年はあっという間に勃起してしまった。
飼育によって、平常時でも13センチあるという、少年の体に不釣合いなほど大きなペニスは、より大きさを増していた。
ふと、少年はショーウィンドウの外に目を向ける。
そこには「女」という生き物がいた。
彼女たちは、自分たちに似た、元は「男」と呼ばれていたという生き物が顔をくしゃくしゃにして泣き叫び、高級食材であるその部分を切り離される痛快な様を見ようと、次々と集まってきていた。
少年は、視線の向かう先が大きく形を変えていることを知り、なぜか少し恥ずかしくなった。
ペニスが完全に勃起したことを確認して、肉屋の少女が右手に肉切り包丁を持ち替えた。
ショーウィンドウの向こう側で、これから起こることに期待する女性たち。
後列の女性たちは首を左右に動かして、切り離すところがよく見える場所を探している。
いよいよ始まる……その器官がかつて、繁殖のために女性たちの体内に侵入していたものであることは、女性なら誰もが知っている。
しかし、今の女性たちはそれを、生殖器官としては見ていない。
たとえば古代ヨーロッパでは、発酵させた尿で洗濯をした、という歴史があるというが、現代人は尿で洗濯など考えもしないだろう。
それと同じなのだ。
彼女たちにとって、家畜の肉体を膣内に侵入させることなど、歴史の教科書にしか書かれていない、グロテスクな行為でしかないのだ。
しかし、わずかに残った人間の本能だろうか。
単なる食材でしかなくなった男のペニスだが、それでも“ちょっとドキドキしちゃうお肉”程度には彼女たちを興奮させるものがあるようだ。
サトミもまた、それが好きで食肉業界に入社した。
ペニスを切り刻み、睾丸をすり潰す作業を始めるたびに、少年が次はどんなの反応をするのか楽しみだったが、それも新人の頃の話。
3年間それを続けてきた今では、かつてほどの情熱は薄れていた。
男はただの家畜、性器はただの肉。
自分の作業はそれを切り離して食べやすく加工すること。
彼女にとって、仕事という日常の一部に組み込まれた去勢という作業。
今でも嫌いではないが、楽しいとも面倒とも思わない。
少年の悲鳴も気にならない。
考えるとしたらせいぜい「けっこう大きくて、いい肉ね。」くらいなものである。
ペニスの先をつまむと、尿道口のあたりに刃先を突き立て、ピッ、とまっすぐ下に下ろす。
「んんっ!」という少年のくぐもったうめき声とともに、尿道がたやすく根元まで切り開かれる。
その根元からゴムのチューブを尿道の奥にもぐりこませる。
この先の作業で少年が失禁して、肉が尿まみれになるのを防ぐためだ。
さらに店員の女性は、左手の上に乗せるようにペニスを持ち上げると、その上でスーッ、スーッとなめらかに包丁をスライドさせる。
手の上からあふれた血が肘を伝って下に落ちる。
今の感覚では、とてもショーウィンドウ越しに見せるようなものではなさそうだが、血に慣れている女性たちはそれをグロテスクだとは思わない。
十数回、包丁が往復したところで、女性は少年の体から離れた。
その手には、機械で測ったかのように、4ミリほどの間隔で見事に輪切りにされた男肉が、その原型を残すようにまっすぐ並んでいる。
そして、男肉を取られた少年の股には、クリップの根元についた円い切り口と、そこから飛び出すゴムチューブだけが残った。
ペニスを奪われた少年は、先程の考えが後者であることを確信した。
繁殖のために必須の、ある意味生命としてもっとも重要な器官。
無知な少年はそのことを知らないが、それを同族の女性たちによって切り取られてしまったショックは大きい。
痛さ、怖さ、そして、何か大事なモノを失った、絶大な喪失感……「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……」少年は口に貼られたテープの中で、声にならない声を上げてた。
女肉屋は手の上に載っている輪切りの男肉を、慣れた手つきで亀頭よりギュッと絞り、海綿体に残った血を抜き終わると、カウンターに用意してあるビニールパックの中にそれを入れる。
「お客様、キンタマはどのように召し上がられますか?」店員に聞かれたお嬢様は、ちょっと考えたりショーウィンドウの中をを見渡してから「そっちは普通に取ってもらって……あと、そちらの少し小さいのもいただけますか?」「あちらですね。」「はい。それで、そちらはソース用に。」「かしこまりました!」女はまず、ペニスを切り落とされて、顔を真っ赤にしてウンウンうなっている少年の陰嚢を、スパッと縦に切り開く。
2つの白い楕円状の球体が、切れ目からポロリとこぼれ落ちた。
それを無造作に掴むと、表面に刃を走らせる。
切れ目から指を入れて、みかんの皮を剥くように外皮をはがす。
こうして中から一回り小さな赤い肉塊を取り出して包丁で切り離した。
少年は作業の間、体を引きつらせて悲痛なうめき声を上げていたが、限界を超えたのか睾丸の中身を抜かれたその瞬間、糸が切れた人形のように力が抜けた。
気絶したようだ。
「うわー……おいしそう。」ショーウィンドウ越しに眺めていた女性の一人がつぶやく。
おそらく、他の女性たちも同じことを考えているのだろう。
抜き取った精巣を、さきほどのビニールパックに入れると、肉屋の女は次の1つに取り掛かる。
客の目の前で切り離すのは、商品の鮮度を示すため、ということもあるが、それ以外にも、男からそれを切り離す行為自体が、女性客を惹きつけるよいパフォーマンスになるためである。
その昔、女性の体を貫き、苛んだ男の性器を、女性の操る冷たい鋼の刃で切り裂き、抉り出し、食す。
そのときの少年の悲痛な声を聞くことが、抑圧されてきた女性の心を本能的に満たし、癒すという……最近、そんな研究が発表されたこともあり、男肉がちょっとした人気を呼んでいるのだ。
ゆえに、少年が気絶して、おとなしくなるのは具合が悪い。
彼には最後まで、男として去勢の恐怖にわななき、泣き叫び、血を流してもらわなければならない。
店員は規則どおり、少年の根元にある、中身を抉り出された睾丸の残骸を乱暴に揉みしだく。
残っている神経をコリコリと刺激され、その痛みで少年の意識は呼び戻された。
「あ、起きた。中身入ってなくても反応するのね。私、初めて知りましたわ。」観客の一人が、買い物に来た友人に話しかける。
サトミは少年の覚醒を悲鳴で確認し、先程と同じ方法で残りの睾丸の中身を抜き取った。
こうして両方の精巣を抜き終わると、壁に取り付けられている有線の電熱コテを少年の股間に当てる。
煙とともに、ジューッ……という肉の焼ける音がする。
作業が終わり、性器を奪われた少年は、途切れることのない痛みに打ち震えていた。
時折、荒い呼吸が止まるほど体を強張らせて耐えては疲労で脱力……を繰り返す。
「こちらはソース用でよろしかったですね?」「はい。」肉屋の少女はさっきと同じように、次の少年のペニスにクリップをはさむと、軽く擦って勃起させ、尿道を切り開いてカテーテルを挿した。
慣れた手つきで手のひらの上に乗せたそれを手早く切り刻み、男肉の薄切りを作ってさきほどのビニールパックに詰める。
観客たちはその様子をショーウィンドウにがぶり寄りで眺めているが、当の肉屋の女性は眉ひとつ動かさずにただ機械的に作業を続けるばかり。
“ここに来てから今日で、何本のペニスを切り落としただろう……?”去勢作業の最中、ふとそんなことをサトミは考えたが、それは今までに、好物のアイスを何本食べただろう?と考えているのと同じ類の疑問だと思って考えるのを止めた。
(ちなみに、彼女の結論としては、食べたアイスの本数より、切り落としたペニスの本数の方が多かったようだ)次に店員少女は、壁にかかった一辺が15センチくらいの、黒い立方体に近い箱を持ち出してきた。
その一面には10センチほどの楕円形の穴があいており、横には大きめのハンドルがついている。
女はその穴に少年の陰嚢を押し込むと、穴の横にある金具を留めて、陰嚢の根元を挟んで固定した。
そして、ぐるぐるとハンドルを回す。
カラカラカラ……というギアが動く音、ブチブチブチ……と、箱の内部に配置された数十個の突起物が力強く、隅々まで睾丸を粉砕する音、そして、その間中続く少年のうめき声。
3つの音が同時にショーウィンドウの中に響き渡る。
2、30秒といったところか。
しばらくハンドルを回した女店員は、金具をはずして箱をはずす。
少年の股間についていた陰嚢は、一面に直径1センチ程度の無数の丸いアザがついていた。
店員の女はさきほどの男肉切り包丁に持ち替え、さっきと同じように根元から縦に切り裂いた。
赤黒く変色して、レモンくらいの大きさに腫れた睾丸がだらりとぶら下がる。
店員は輸精管からそれを包丁で切り離し、用意した小さなビニールのカップの上で切り離した睾丸を逆さにしてギュッと握り締める。
輸精管を伝って、中からペースト状にすりつぶされた睾丸の内部がドロドロと流れ、ビニールカップを満たしてゆく。
すっかり中身を搾り出すと、2つ目の睾丸も同様に切り離し、中身をカップに注いだ。
フタをして、ビニールパックの中に入れてセロハンテープで留め、ビニール袋に入れて女性に手渡す。
「お待たせしました! 大きい方は12年モノなので、ガーリックとオニオンで臭みを取って、ソテーするとおいしく召し上がれますよ。ソースは醤油とバジルで味を調えてください。」「あら? 10年モノの方はオススメの食べ方が別にあるのかしら?」「ええ。うちは天然モノで鮮度も高いですのでお刺身でもおいしいですよ。特に先の丸いところ、キトウの部分はコリコリして格別ですよ。」「さすが養殖モノとは違うのね。今日はそれでいただきますわ。」「生食は本日中にお召し上がりください。ありがとうございました!」去勢された2人の少年は、焼け跡だけが残る股の間からこみ上げてくる激痛を、体をくねらせて耐えている。
そうしながらも、自分の大事な体の一部を持ち帰る少女を、姿が見えなくなるまで涙顔で見つめていた。
「ただいまぁ。」「お帰りなさい、あなた。」キャリアウーマン風の女性が、我が家の門をくぐる。
廊下から、エプロン姿の少女がそれを出迎え、早い帰宅を喜んでいる。
人間の生活から男性が姿を消してからも、結婚という制度はなくなっていなかった。
結婚した2人の女性は、望むなら一方の卵子を遺伝子操作し、精子と同じ成分を作り人工授精する。
どちらかが生計を立てるために働き、どちらかが子供を育て、家庭を守るために家事に従事する。
男がいなくなっても夫婦の制度が変わらなかったことは、食材として存在している男性にとっても皮肉なことかもしれない。
「お、いい匂いだね。今日は何?」「今日は奮発して、男肉のソテーよ。」「おおっ! それは久しぶり! さっそく食べよう。」「うふふ。すぐ料理するからあわてないあわてない。」帰宅した女はワインを片手に、ペニスの刺身をつまんでいる。
エプロン少女は、まな板の上の輪切りのペニスに塩コショウを振り、軽く叩いてなじませる。
「オチンチンのお刺身なんてはじめて食べたよ。カナも食べてみなよ。」「うん。もうちょっと待ってね。これ作ってからにするわ。」夫はテーブルの女は薄切りされた肉片を口の中に放り込み、コリコリとした食感を楽しんで待つことにした。
その間にカナは料理を仕上げる。
フライパンにバターをひき、ガーリックとオニオンを軽くローストしたあとに、輪切りの男肉を菜箸でつまみ、一枚ずつ丁寧に落としていく。
シューッという音がして、周囲に肉の焼ける香りが充満する。
「うーん……この匂い。お刺身もおいしいけど、そっちも早く食べたいね……。」最後に真ん中から2つに切った睾丸を入れて、フライパンを軽くゆする。
熱くなった部分に肉が動くと、ひときわ香ばしい香りとともに、ジュジューッという焦げ目のつく音が聞こえる。
肉をひっくり返して両面を焼き、熱が通り過ぎないように手早く皿に盛り付ける。
「おまちどおさま。オチンチンとキンタマのソテーよ。さあ召し上がれ。」エプロン少女は、テーブルで待ちわびていた女の前に皿を出す。
「いただきまーす! パクッ……モグ……モグ……ん……やっぱりオチンチンおいしーっ!」「でしょ? マルキュウデパートで買った、国産の天然12年モノよ。」「えーっ!? それじゃすごく高かったんじゃないの?」「あなたがいつもがんばってるから、たまにはいいじゃない。それよりも、ねえ……。」エプロン少女は顔を赤らめ、艶っぽい瞳を向かいの彼女に向ける。
「そうだね。こんなの食べさせられちゃボクも我慢できなくなっちゃう……よーし!今夜はカナも寝かさないから覚悟しろよ!」「やだ……そんな恥ずかしいこと大きな声で……でも、期待しとくわね! はい、それじゃ残りもたくさん食べてねっ!」