やっぱり、Mのいうとおり格好つけずに、やっておくんだったかな・・・
もしかしたら、やらなかったことを一生後悔するのかな。
終業時間が近づいてきていました。
もちろん普段なら、それから4時間以上は残業で残るところです、仕事も実際には溜まっていました。
それでも今日は時間がきたらさっさと帰ろうと僕は決めていました。
さすがに今日ばかりは、リーダーも残業しないで帰ることを咎めるような元気はないだろうと思いました。
「○○君、ちょっと、これを頼みたいんだけど」
帰り支度を始めようとしていた私にリーダーが、この日はじめて声をかけました。
さかとは思いましたが、朝あんなことがあったのに残業の依頼でしょうか、少しあきれた気持ちになりながら、
僕はリーダーのデスクの前に立ちました。
無意識のうちに僕の視線は、今はスーツの襟元から覗く白いシャツに守られたリーダーの胸元にすいつけ
られています。
僕に向かって眼差しを上げたリーダーも、その視線の意味を、瞬間に察したようでした。
今はまったく素肌が露出してもいない襟元を隠すように、少し抑えるようにしながら、1枚の書類を私に渡しました。
「別に急ぎではないから、明日でも構わないからやっておいて」
普段ならリーダーがまず口にしない言葉です、いつもなら「今日中に・・」か「すぐにお願い」が口癖なのですから。
でも、フロアーの誰も特に気にとめた様子はありません、まあ他人のことなど気にしている余裕はないというところなのでしょう。
渡された書類は、実際には書類ではなく、ごく短い伝言でした。
「明日の21時、今日の事で話がしたいので××で待っています」
××はたまに社用で使うレストランバーです。
小さな個室がたくさんあるタイプの店で商談などにも使いやすいので、リーダーがたまに使っている店です。
話っていっても、あんなことの後で何を話せって言うのかと思いながらも、仕事の依頼ではなかったことに
内心ほっとして、その日は帰宅しました。
その夜はとても安らかに眠れる気持ちではありませんでした。
写メのリーダーの写真を見ながら。キャビネットに突っ伏したリーダーを立ちバック体位で、ひたすら犯し
続ける様子を頭のなかで繰り返し繰り返し妄想して、一人寂しく慰めていました。
リーダーは理知的な顔立ちやそこそこのスタイルもあって、たしかに世の一般的な評価基準からいけば、悪くない女だと思います。
それでも、僕はどうしても彼女を好きになれるとは思えませんでした。
今朝のあんなことがあった後では可哀想という気持ちもないではありませんが、それでも彼女の性格や考え方、
そういうものを思うと男女としての好き嫌いという気持ち以前に、正直、辟易とした気分になってしまうからです。
不思議なものです。
そんな相手が対象であっても、性的な欲望はこんなにも湧くのだというのは、僕にとっては新しい発見でした。
翌日も平凡な?毎日に戻ったかのような一日でした。
ただ僕の頭のなかだけでは、すぐ数m先に座っている凛としたスーツ姿のリーダーに、立ちバックの姿勢で股間
を曝け出していた素っ裸のリーダーの姿が重なった映像が一日中ちらついていて、ジーンと頭の芯がしびれるよう
な感じと、たえず喉の渇きを感じているような一日でした。
リーダーは20時ころに帰って行きました。
僕は××の店内にはいると店員に「21時に2名で予約しているSですが」とリーダーの名前をつげました。
案内された狭い個室にはいると、テーブルには幾品か肴がもうだされており、リーダーは生ビールを飲んでいました。
「悪いわね、喉がかわいたので先にやらしてもらってるわ。 生ビールでいい?」
昨日の今日の気まずい雰囲気を払拭するようにリーダーは、僕のぶんの生ビールを追加オーダーして席をすすめました。
それでも気まずさはいかんともしようがありません。
狭いテーブルに差し向かいで手が届きそうにも感じられるリーダーを見ながら、いやおうもなく僕の頭は昨日の彼女の痴態と、
目の前の彼女を重ね合わせて想像してしまっています。
その雰囲気がリーダーにも伝わっているのが、なんとなくわかります。
「まあ今日は私の驕りだから、遠慮しないで、どんどん食べて飲んでよ」
生ビールから冷酒へと切り替え、追加の肴なども頼みながら、二人はほとんど無言に近い感じでした。
息苦しい時がどれくらい過ぎたでしようか、その重苦しい雰囲気をふっきるようにリーダーが話し始めました。
「もちろんわかってると思うけど、今日は昨日のことを話そうと思って・・・」
「結論から言うけど、忘れて欲しいんだ。 誰にも口外しないって約束もしてほしいんだけど」
「○○君(私)が私のこと嫌いなのは判ってるけど、でも忘れるほうがお互いにいいって君も判ると思うし」
彼女の物言いにちょっとムカッとしかけました。(困るのはお互いじゃなくて、そっちじゃないのか?)
あんな無様な姿を見られているくせに、よくそんな上から見下ろすような物言いができるもんだ。
「私がバカだったんだよねえ、Mから聞いたんでしょ、私と部長のこと」
「もう終わってるんだから、気にすることなかったのに、なんだか会社にいられなくなるような気がして」
「M君にあんなこと・・・」
高圧的な感じの物言いは彼女のいつものクセで、ついそういう口調になってしまっただけのようでした。
すぐに、今までにない、しおらしげな口調にかわりました。
「M君もずっと連絡してこなかったから、すっかり終わったと思ってたんだよね、そしたら昨日、急に呼び出されて・・・」
「まさか君まで出てくるなんて思いもしなかったし」
「でもありがとう、それだけは言いたかったんだ。」
「たぶん、M君も、本当にもう連絡してこないと思うんだよね」
「私も昨日みたいなことは、もう耐えられないから、もう一度、昨日みたいなことがあるようなら本当に警察に行こうと思ってるし」
「合意だってM君は言ってるかもしれないけど、あれはやっぱりレイプだよ、私にとってはそう」
「まあ、そうしたら私も終わりだけどね。 でも、本当にそうしようと思ってる」
ここで、もう一度じっと私の目をのぞきこむようにして、ダメを押しました。
「だから、君も昨日の事は忘れて」
彼女の人間性に対する嫌悪感が変わったわけではありませんが、素直に礼を言われたことと、本当に彼女が苦しみ悩んで
警察に行くことも覚悟しているのを感じて、昨日の朝、哀れに感じた気持ちが僕によみがえってきていました。
「わかりました。 忘れましょう。 それに、誰にも言わないと約束します。」
言葉ではなく本当にそう思いました。
これで終わりにしよう、これは悪い夢だ。
「ありがとう」
そう言いながらリーダーはまだ何か言いたげにしています。
「それから・・・・・、あの画像、削除してくれないかな」
「Mからもらったでしょ?」
ああ、そのことか。
「わかりました、削除しときますよ」
「今持ってる?」
「ええまあ、受信しただけなんで携帯にはいってますけど」
「今ここで消してくれないかなあ・・」
ことここに至っても交渉ごとの押しの強さというか、あつかましさは健在です。
「いいですよ」
彼女の厚かましさというか、そういうのに、ちょっと意地悪な気持ちになったこともあり、
画像を彼女に見せながらいいました。
「それにしても、すごい格好撮らせましたねえ、これ消せばいいんですよね」
さすがに視線をはずすようにしながら頷きます。
画像を消去しました。
まあこんなことは何でもありません、すでにパソコンにコピー済みです。
ちょっと考えればわかりそうなものですが、リーダーは受信したまんまという僕の言葉を間に受けたようでした。
やっと少しだけ安心したような表情になりました。
また黙々とした会食が続きました。
気まずさもあって黙々と酒を煽っているので、さすがに少し酔いもまわってきそうになり、そろそろ退散するかと考えていたころ。
リーダーのほうも最後の話題というような感じで話しかけてきました。
「あのさ、もうあんなところ見られちゃってるし、本当のところ聞きたいんだけど」
「嫌われてるのはわかってるんだけどさ」
「私って、そんなに魅力ないのかな?」
!!! 
えっ! なんだって・・・
俺の事を口説いて・イ・ル・ノ・カ !!
まさかね・・・
「別にそんなことないですけど・・・」
何と答えていいやら口ごもる僕
「でも、魅力ないんだよね。わかってる。 だって昨日も・・」
「本当に感謝してるけど・・・」
「あの状況で手をだされなかったのは、ある意味、感謝してるのと同時に屈辱的っていうか・・・」
はあ?
やっちまわれた方がよかったって言うのかい?
そんな言葉は僕には口に出せません。
「昨日のは、魅力があるとか、ないとかそういうんではなくて・・・」
「でも私には、なんていうかそういう気持ちになれないっていうことでしょ?」
「そういうふうに言ってたよね、なんていうか、・・・たたないとか・・」
会社ではなんともない風を装っていましたが、あんな姿を見られているという気持ちが僕に対する、
恋愛感情というか、そんなようなものを彼女の中で育んだとでもいうのでしょうか?
どんな女でも女なんてやられてしまえば・・・などと下衆なことが言われますが、
リーダーのように強気な女性でも、やられてはいなくても、あんな姿を見られては、その男に対して・・・
というようなことなのでしょうか。
「まあ、そういう風に言われれば、そういうことになるかなあ」
なんと答えていいのか僕もとまどいながらあいまいに答えました。
「私の体じゃあ、○○君にはなんの価値もないってことだよね」
言葉の端になんだか言外の意味が感じ取れます。
僕もそれほど察しのいい方ではないのですが、なんとなくリーダーの考えていることがやっと判ったような気がしました。
要するにリーダーは僕を信用していないのです。
もちろんのこと恋心に近い感情など、彼女からみれば「能無男である僕」に持つはずもなく。
写メは削除させたし、あとは僕さえ黙っていてくれれば、会社での彼女の地位は安泰というわけです。
でも、こいつは低能野郎だから、もしかしたら誰かに吹聴するかもしれない・・・
しょうがない、黙っているなら、一回やらしてやってもよいか、と言っているのです
口止め料か・・・
同じことをして、Mにあんな目にあわされたばかりだというのに、まつたく懲りていないというか。
はっきりと判りました。
やはりこの女の性根は腐っている。
要するに、いまだに僕のことを見くびって、いや、見下しているのです。
「あんたみたいなのが、私のような有能でいい女を抱けるのよ、口止め料としては申し分ないでしょう。」
そういった高慢な態度が言葉の端々から覗えるのです。
なんだか、少しでも可哀想とか感じた自分がばかばかしくなってきていました。
しかも、Sリーダーは自分のそういう考え方とか態度が僕にどう思われるかなどということはまったく気にもしていないのです。
彼女としては歯牙にもかけていない僕の感情など気にするわけもないのでしょう。
僕にもMの気持ちがやっとわかった気がしました。
何故、人がかわったようにMが暴力的な接し方でリーダーを犯していたのか・・・
何故、あんな非常識とも思えるような行動にMがでたのか。
セックスさえさせてやれば、言うことをきく、所詮はその程度の男なんでしょう、あんたは。
そういう彼女の心の声が聞こえるのです、それがMをつき動かしていたのかもしれません。
こんなことなら助け舟など出さないで全社員の前に素っ裸で放り出してやったほうが
よっぽどよかったのかもしれないと心底思いました。
彼女が言いなりになるのは弱味を握られているからだけ。
体を投げ出していても、その実プライドはまったく傷ついてはいなくて、股ぐらに男根を突っ込まれているときでさえも、
やはり心の隅でMを見下していたのです。
そしてMも僕も自分たちが小ばかにされていることをはっきりと感じるのです。
この女の高慢なそのプライドがMや僕をムカムカさせるのです。
なんとしてでも、僕たちを見下している態度を改めさせてやる。
Mは思ったのでしょう、そのためには徹底的に貶めてやるのだと。
僕はコップの酒をリーダーの顔にぶちまけて帰りたい衝動にかられました。
でもヘタレの僕の口から出たのはそれとはまったく違う言葉でした。
「そんなことはありません、十分価値のある魅力的な体だと思ってますよ」
「あの時は、あんな風な状況で、そうなるのがどうかと思っただけで、今なら違います」
「なんなら、これから試してみますか?」
ホラ、餌に食いついた。 所詮はこの程度の男なのよこいつは。
彼女の心の声がはっきりと聞こえました。
「え~、そんなつもりで言ったんじゃないんだけどなあ」
「でも応接室では助けてもらったし、部長のことも、M君のことも、それから応接室のことも
絶対誰にも言わないって約束してくれるなら、お礼で今夜だけって約束ならいいかな」
弱味があるのは自分のほうなのに恩着せがましいセリフです。
僕の中でどす黒い決意というか憎悪というものが、雪ダルマのように膨れていきます。
よし、やってやろうじゃないか。 
Mが砕くことができなかった、お前のそのプライドを、俺が徹底的に叩き潰して心底から後悔させて、
足許で泣いて詫びをいれさせてやる。
「そうですか、今晩だけですね。いいですよそれで。じゃあ行きましょうか」
心の内の憎悪はお首にも出さず、僕は軽い感じで彼女を誘い店をでました。

タクシーにのり新宿5丁目の交差点でおり、以前から知っているラブホテルへと向かいます。
リーダーも無言で寄り添うようについてきます。
入り口のところでちょっと躊躇するような素振りをみせましたが軽く肩を押すようにすると
そのまま、すっと入り口へとはいりました。
エレベーターを降り、細い通路を抜けたところの奥まった部屋のドアをあけると、リーダーの肩を抱くようにして
部屋の中へと進み、たったままリーダーを抱きしめキスをしました。
細ぶちのメガネをかけた見慣れたリーダーの顔が、これまでにないくらいに眼前に近づきます。
目も口も閉じていましたが、僕の唇がふれると自然に口元が開き、最初から意外なほど積極的に彼女の舌が絡んできました。
おざなりなキスだろうという僕の予想はよい方へと裏切られました。
それは熟練のカップルのような最初から濃厚でヌメヌメとした、あきらかに前技の一部をなしていると思える口技だったのです。
ちぇっ!
口止めのために屈辱に心で泣きながら体を許すリーダーでなくては、僕の彼女に対する嫌悪感と征服感の糧にはなりません。


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